【戦略プロフェッショナル】三枝匡:シェア逆転の企業変革ドラマ。戦略と戦術の違いとは!?

戦略プロフェッショナル―シェア逆転の企業変革ドラマ
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この本は、自分に戦略と戦術の違いを教えてくれた本。

起業当初に、確か、プロダクトのPMFは達成して、営業のPMFをどう達成すれば良いか悩んでいた時期に読み、自分が今まで戦略と思っていたものは、戦術レベルでしかなかったことに気づかされ、物事を考えているようで考えていなかったなと猛省させられた記憶がある。

会社やサービスの現状と課題を「マクロな市場環境の視点も含めて客観的に」「できるだけ正しく」認識し、限られた人的リソースの中でベンチャーが勝つべき戦略をどのように立て、そして立てた戦略を具体的にどのように実行していくかまでの一連を描いている。

三枝さんの戦略プロフェッショナルの三部作はどれも読み応えがあって素晴らしいが、医療系のサービスをどのように売るかに関しては、「シェア逆転の企業改革ドラマ」が、実際の医療機器をどのように病院に販売すれば良いかに関して具体的に描かれている(実話ベース)のでオススメ。営業戦略はこのように立てて、実行に落とし込むにはこのようにすれば良いのか、ここまで考えないといけないのかという一例を知ることができる。

以下、勉強になった部分のまとめ

プロダクトライフサイクルとベンチャーがつまずくタイミング

  • ハイテク・ベンチャーがつまずく時は、技術開発で負けるというよりは、生産技術や営業体制で負ける場合の方が圧倒的に多い。事業や製品がプロダクト・ライフサイクルの段階を進むにつれて、市場での競争のポイントが変化していき、そこで競合に勝つポイントも移行していく。
  • しかし、会社がガンガン成長しているときには、経営者はそれがずっと続くだろうと思いこんでしまい、競争のポイントが変化していることに気づきにくく、気づいたら負け戦に巻き込まれている

これは、本当にその通りだと思っていて、絶えず、競合や市場の状況に目を向けて、マクロでの市場環境や戦いの変化をできるだけ客観的に認識しておくことが経営者には必須だと思う。そうしないと、戦いのポイントが変化しているのにも関わらず、それまでのポイントにリソースを費やしたままで、自分は正しい戦略を立てているはずなのに、なぜかジリ貧になっていて理由が分からないとなりかねない。

出典:戦略プロフェッショナル シェア逆転の企業変革ドラマ

市場が導入期や成長期の初期:製品内容による優位性

  • 外部からの参入は楽である。自分にとっても楽だし、競争相手にとっても楽
  • 製品内容による優位性がカギである。製品の信頼感が確立していない段階で価格差を強調しても、その効果には限りがある。

成長期:営業体制やアフターサービス網

  • 成長期に入ってどこの企業も似たものを出せるようになると、営業体制やアフターサービス網など、いわゆる「面」展開での蓄積に勝負の決め手が移る。

成熟期:価格差・複合的優位性

  • 価格差による戦いが待っている。サービスを提供することで価格競争から免れようとしても、この段階では限界がある。
  • 価格を下げる競争はコストを下げる競争である。そのためには販売量を増やさなければならない。かくして競争は、ますます面展開や量的拡大の競争に移っていく。それは資金量の戦い。
  • ライフサイクルの最終段階では「複合的優位性」が支配する。この段階で競争上の地位(マーケットシェア)はほとんど固定する。
  • 新しい優位性を打ち出す余裕は少なく、互いにもう攻めどころがない。「いったい何が要因なのかはっきりしないのに、とにかく差がついたままだ」というのが実情だ。逆に言えば、それがトップ企業の「勝ちパターン」

これは、自分が起業したサービス「メルプ」でも明確に感じていて、初期の市場導入期は新しい物好きのイノベーター層が購入してくれたので、製品が優れていれば導入されやすく、ここでのPMFを達成すれば、成長期への初期段階へとうまく足を踏み入れることができた。

しかし、その後は、アーリーアダプター層へと顧客層が変化してきて、製品だけではなくアフターサポートや営業体制の充実がより求められるようになった。市場と顧客のニーズに合わせて、注力するポイントをシフトせざるを得ない状況になり、自然とそうなっていった。この時期は、競合もどんどん参入してきて、WEB問診で10社以上はあったように思う。

そして、この記事を書いている2023年11月現在は、自分の認識では、WEB問診の市場は成熟期に片足突っ込み始めていて、WEB問診のみならず、その前後のサービス(予約や電子カルテなど)を含めた一気通貫のサービスをより求められるようになり、複合的優位性が支配する状況となりつつある。競合の数もだいぶ絞られてきている。

最後の複合的優位性が支配という点も、その通りで、市場成熟期のサービスで、機能の1つの側面だけを見ると「なんでこんなに使いづらいんだろう?」「どうしてこんなに使いづらいのに、このサービスが市場シェア1位のままなんだろう?」とプロダクトを作る側やエンジニアは感じることもあると思うが、勝負はすでに機能面だけではないのと、顧客からしたら差分が明確に分かるほどではすでにないので、「なんとなく」「みんながこれを導入しているから」などの理由でロジックではない部分で勝負がついてしまっている(ということを、仮に嫌だったとしても理解しないといけない)。

そして、「なんとなく」勝負がついてしまっていることほど嫌なものはなく(手のうちようがないから)、そういう状態を作り上げた企業は勝利である。

ちなみに、別の本の爆速成長マネジメント」では(この本もおすすめ)、次のように書かれている。

世間の噂と違い、成功するテック企業の基本モデルはプロダクト中心思考ではなく流通中心思考です。ひとつ目のプロダクト自体が流通網となり、世界展開を可能にします。その流通網に多くの新製品を投入していくのです。

スタートアップとしてもどかしいのは、自社のプロダクトの方が優れていても、流通網に優れた会社にやられてしまうことです。

市場シェアを取れれば、新プロダクトの研究開発用に多額の資金を投下できるようになります。また、M&A用の予算を確保できるので、必要なら2つ目のプロダクトは買収で手に入ります。2つ目のプロダクトを成功させるための選択肢が増えるのです。

爆速成長マネジメント

原著(英語版)は、こちら。

事業成長の3ルート

出典:戦略プロフェッショナル シェア逆転の企業変革ドラマ

基本的にどの企業も3ルートを辿る。

ルート1:「栄光」ルート

  • 世にいうエクセレント・カンパニーへの道で「栄光」ルート。AからBへ進み、やがてその事業の成長率がピークを過ぎて落ち始めると、ルート1の線上をCへ向かう。競争相手の動向がしょっちゅう話題になって、自分たちがいつ負けてしまうかとピリピリしている。
  • 走りながら考える感じだから、決断も早いが朝令暮改も多い。社員がそれに慣れていて怒らないかと言えばそんなことはなくて、すでにアクションをとってしまったとブーブー言う。しかし上の者は平気で、懲りずに朝令暮改を繰り返す。それが元気な印。
  • 「期限の設定」が明確
  • アクション志向で、動きながらプランを固めていく感じ

ルート1の次の段階:ルート1からエクセレントカンパニーへ進めるかどうか

  • ただし、1つの事業でうまくCまで辿りついたとしても、それによって出た利益を次の新規事業に(また新しいAヘと移る)盛んに再投資して活性化させないといけない。なぜなら、既存事業は、プロダクトライフサイクルの構造上、最終的には衰退期に入り成長率に翳りが出てくるので。
  • 再投資がうまくいった企業はE1のポジションに行き、エクセレントカンパニーとなる。エクセレント・カンパニーとは自己増殖的に、このサイクルを活発に回す組織風土を作り上げた企業
  • 一方で再投資がうまくいかなかった企業は、E2への道を辿る。この会社群の場合は組織の活性化に問題を抱えている。世間的には優良な大企業と見られているが、戦略的にはエクセレント・カンパニーとは呼び難い。社長が新しいもの好きで、開発方針が定まらず、次から次へと新しい話に乗り換えてAの辺りをグルグル回っていると、資金源になっていた既存ビジネスが枯れてくるのと並行して、会社全体も枯れていく

ルート2:「混戦・不安定」ルート

  • このルートをたどる企業は、いつも他社の後追いで、方針もフラフラする。それでも、何とかルート2に沿って行ければ、将来、市場が成熟期になった時には、業界の三番手から五番手ぐらいには落ち着く。そこに至るまでに競争の淘汰が激しくて、生き残る企業が三社ぐらいしかないという業界なら、ルート2からはじき出されて、ルート3に押しやられるかもしれない。

ルート3:「ドンジリ」ルート

  • 最後の成熟段階に行き着く前に、振り落とされる。業界が成長期に入っても売上高のグラフは大して上向きにならず、水平軸に沿って横に線が延びていく
  • 社内の不平不満は内向している。社員の頭の中にはお客さんや競争相手のことなどはほとんどなくて(ルート3企業では、社員がユーザーに会いに出かける頻度が少ない)、社内の人間に向けられた不満でいつもジメジメしている。自分たちの都合がまかり通っていることが多い。
  • 「時間軸」の設定がどうしようもなく曖昧。これは、競争の認識が甘いことからきている。それがさらに、成長戦略に必要な「絞り」と「集中」の甘さを呼ぶ
  • じっとして考え、よく事情も見えないのに作文のようなプランを作ってみたり、または十分な検討なしに大きな投資を決め、走ってみて最後におかしいと気づいたりする

ルート1企業でもルート3企業でも、量の違いはあるものの、外からの情報は入ってくる。

しかし、ルート1企業はそれを誰かが加工し、意味を加えて社内に再発信するのに対して、ルート3企業では情報が社内に埋もれたままになる。

この典型的な3ルートを頭に入れた上で、成長戦略のポイントは、

  • 「絞り」と「集中」で、どんな小さいセグメント市場でも良いのでルート1を狙ってNo.1になること
  • そして、ある程度進んだら、A段階への再投資のサイクルを確立しなければならない

ルート1のエクセレントカンパニーの代表例で思い浮かぶのは、Amazon。

言わずと知れたエクセレントカンパニーだが、もともとECサイトでルート1を、ひた走っている間に、ECサイトのインフラ構築に時間が取られてしまうという課題から自社でクラウドサービスAWSの開発に着手。そして、AWSが巨大なキャッシュカウになり、新たなルート1をたどっている。ほんと、すごすぎる。

ちなみに、そのAWSも最近はAzureの追い上げが凄まじい。市場的には、AWS、Azure、GCPの3社に絞られてきている感はあるので、成長期から成熟期に入り始めているのではと個人的には思う(まだまだオンプレがほとんどで市場全体で見るとクラウド化の余地があるという点では、まだ成長初期なのかもしれないが)。なので、AmazonといえどもAWSの次のルート1を見つけるのに必死で絶えず試行錯誤している。

一方で、日本の大企業の多くは、内部留保を溜め込んでいるという批判もあるが、1つの事業でルート1を辿った後の、再投資がうまくいっていないところが多いように感じる。難易度はかなり高いと思うので、私が大企業のことを言える立場ではないのだが。

2023年3月から「脱・PBR1倍割れ」の東証からの要請が来て、対策を講じている(自社株買いや配当を出すだけではなく、再投資を積極的にやる)企業も出てきているので、今後の日本企業の動向も楽しみ。

東証が異例の要請「PBR1倍割れ改善」の"真意"
――3月末にPBRが低迷する上場企業に対して、改善策を開示・実行するよう要請しました。アメリカなどと比べた日本企業の資本効率や収益性、株価の低さは長年問題視されてきましたが、それにメスを入れた画期的な策…

物語後半の感想は、こちら

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