こちらは、メルプ創業初期にグロービスの仮屋園さんにアドバイス頂こうとアポを取って、麹町にあるグロービス経営大学院を訪れた際に、フロントに飾ってあった本。
フロントで待っている間に、気になってパラパラまくったところ、文庫本サイズで持ちやすく、面白そうだし読みやすそうと感じて、購入した。
よくwin-winを目指すと言われるが、具体的にどのように交渉を進めていけば良いか、様々な具体例をもとに記載している。2時間くらいで、サクッと読めるのも良い。
ゼロ・サム状況から価値創造へ
交渉は、お互いの意思や利害を調整し補完し合って、何らかの合意を得ることを通じて双方にとってよい結果をもたらそうとする営み
企業間で何かしらの交渉をする際に、パワーバランスがあると思うが、それを意識しすぎて、どこを譲歩してどこを取るかみたいなゼロサムゲームばかりを意識しているとよくない。
例えば、『双方の企業体力の差は関係なく、ビジョンを共有するという意味で対等の存在であり、互いに最善と思う方法を主張していくと宣言したことをきっかけに、交渉力の強い会社も宣言した会社をパートナーとして認めるようになり、両社に信頼関係が生じ、その後は有益な交渉が展開されていった』という事例が本には記載されている。
優れたネゴシエーター(交渉者)に共通する姿勢4つ
①積極的に準備をする
②目標を高く設定する
③相手の話に耳を傾ける
④誠実である
BANTAとZOPA
はじめて、この英語見たときは、何それ?って感じだった。指し示している内容は、交渉時に無意識にでも意識している部分。
BANTA
- Best Alternative To Negotiated Agreementの略
- 交渉で合意が成立しない場合の最善案
ZOPA
- Zone Of Possible Agreementの略
- 交渉が妥結する可能性のある範囲
よくベン図で記載してあるのは見るが、線分図は分かりやすいと感じた。
もちろん、最初から相手が「自分の交渉できる譲歩範囲はこれです」と明確に言ってくれることはないので、相手のBANTAは推測することになるし、交渉なので、相手がアンカリングして吹っかけてくるかもしれない。
とはいえ、最初からZOPAがあると感じれば、あとは、その中でどう妥協点を見つけるかになるので、やりやすい交渉と言える。
一見、ZOPAがない場合どうするか?
上記のように、一見ZOPA(交渉可能範囲がない場合)どうするか?
いくつかの選択肢が考えられ、もちろん交渉すること自体を拒否するのもありうるが、ここでは交渉を続ける場合の例。
BANTAは固定ではない。交渉の間も動きうることを知っておくこと(相手だけではなく自分もそう)。
論点は複数存在するかもしれないので、相手が本当に求めていることは何かを探ることにフォーカスし、互いの求めていることが複数あった場合には項目ごとに優先度を整理していく。
そして、自分にとって価値の小さい点では譲り、その代わり自身にとって価値が大きい(相手にとってはそうでもない)点で有利にすることで、お互いwin-winの状況を作り出す。
交渉で陥るバイアスを知り、対策をする
交渉をしている最中は、自分に有利に持っていきたい、交渉に勝ちたいという心理が働き、心理的バイアスを生み出してしまう。
交渉過程によく起こりがちな心理的バイアス
- 非両立バイアス
- 反射的価値下げ
- NIH(Not Invented Here)症候群
- 立場固定
- サンクコスト
- 確証バイアス
- 印象管理
- 授かり効果と損失回避
こうした勝とうとするバイアスを回避するために、あらかじめ仕掛けを作っておくと良いとのこと。交渉が始まってからではどうしてもバイアスが発生してしまい手遅れになるので。
バイアス回避例
- 撤退ラインを決めておく
- 不合理な意思決定をしようとしていないか信頼して相談できる第三者を持っておき、チェックシステムを作る
- 「小さな妥協点」も複数用意して事前にメモしておく(これは本に記載してあって点ではなく、自分で付け足した部分)
逆にバイアスを回避するだけではなく、うまく付き合って利用するというのもできる。
例えば「先手を取る」。何か新しい論点が浮上した時に、他者に先駆けて自分が動き、意思表明すると、それが他者へのアンカリングになり枠付けを形成するなど。
感情→規範・利害→合意
まず感情面で行き違いのない状態を作る
実際に交渉を進めるときは、利害の調整に入る前に、まず感情面で行き違いのない状態を作っておくことが重要。
相手の感情が高ぶっている場合は、何を言っても始まらないし、「感情的になっているから理屈が通じない」と正当化しがち。とにかく相手が言いたいことを言ってもらって発散させ、ある程度感情がおさまってから、比較的論理で解決できる話に持っていく。
もちろん相手の感情だけではなく、自分の感情もコントロールすることが重要で、いかに冷静にメタ認知できるかが鍵になる。
これは、ビジネスだけではなくプライベートにも通じる。
合意可能な規範を発見する
規範とは、例えば「社の方針には従うべき」などの行動基準のこと。
お互いの規範が相容れないと、利害は一致しそうだが、なぜか交渉決裂となり、あれはなんだったんだ?というモヤモヤになりかねない。
ただし、相手の規範が1つしかないというケースはそれほど多くなく、複数の規範を同時に持っていることが多い。なので、Aという規範に照らすと折り合い難しいが、Bという規範に照らせれば折り合えるというように、相手の新しい規範を積極的に発見することが重要。
その他、交渉関係で過去に読んだ本・記事
こちらは、グロービスの本よりも、より1章1章のページ数が少なく、ライトに具体例が記載されている。
色の効果・パーソナルスペースの活用・話すスピード・目の合わせ方などなど、心理学的な具体的要素が散りばめられている。読みやすい。
「3000人のユダヤ人にYESと言わせた技術 」byマーク冨岡
タイトルがだいぶキャッチーだが、日本だけではなく海外の各国での交渉の仕方が、筆者の実体験をもとに描かれている点が読み物としても面白い。以下一例
アメリカ
- スマートで威圧感のある話し方で一気に主導権を握る
- 強い眼差し(睨むのではなく、相手の目の奥を見つめる・目があった時にそらさずに見つめ続ける)と、強い口調(一言一言をはっきりと発音・強調したい部分は声高に伝える)が重要
イタリア
- 笑顔の挨拶で第一印象を良くする
- ボディタッチ:ここぞという時には両手で握手。親近感を与えられる
スペイン
- 三人以上の食事の時には、話の中心の人にだけ話しかけるのではなく、そこにいる一人一人の顔を見ながら話す
- リラックスしながら一緒に食事をすれば、ビジネスの本音が聞けるし、交流ネットアークを広げられる
DeNA南場さんの記事
https://dena.com/jp/article/003087
私も交渉で一番大事なポイントは「なるべく交渉しない」ってことかなと思っています。この提携で自分たちが達成したいこと、譲れないこと、困ることなど、双方が全部一度にテーブルに乗っけてしまうことが理想です。よく、のりしろを残し、譲れない線よりも上から交渉に入るべきと言う人もいます。けれどもこれをやっていると、例えば収益の分け方について、一度「ここから下は受け入れられません」と述べた後に、その下の線で妥協することになり、結局相手に「この人たちはふっかける」と見透かされ、それを前提とした探り合いに入ってしまいます。時間が浪費されるし、信頼関係は醸成されません。提携や協業の場合は、その後一緒に事業をしていくわけなので、「正直でない人たち」と思われて得をすることはひとつもないわけです。
ほかに気をつけている点は、「すべてのステップで返事を早くする」ということと、「なるべくシンプルに」の2点でしょうか。
交渉の王道テクニックは「百害あって一利なし」:南場連載
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