前半部のまとめ(プロダクトライフサイクル、事業会社の3ルート)はこちら。
物語の後半は、より具体的な、製品の価格戦略・セグメント設定・目標に対する営業の進捗管理についてストーリー仕立てで書かれている。
物語のあらすじ
主人公・広川は、日本有数の鉄鋼メーカーである第一製鉄から出向し、関連会社の新日本メディカルで医療機器関連の不振事業の再生を委ねらた。新日本メディカルは、米国のプロテックが開発している臨床検査薬の日本の総代理店を行っている。ただ、業績が芳しくなく、競合に大きく水をあけられている状態。
プロテック社にはいくつもの臨床検査薬に関する製品群があるが、その中でもジュピターというG物質を測定する検査を自動化して、多くの患者の血液を一度に検査できる新型の機械が製品としての強み。競合も同様の製品はまだ出していない。というわけで、この新製品ジュピターをいかにして多く売るかが至上命題。
経営のカンとは何か?
- 経営のカンとは、失敗によって見えてくる原因と結果のつながり(経営の因果律)を実体験からたくさん知っていることで後天的に養われるもの
- カンは本来、経験の蓄積から出てくるが、筋道を立てて考えるやり方(プランニング)を繰り返すことでカンの体得が加速され、ただ経験に頼るだけの人よりもはるかにカンの冴えた経営者が出来上がる。
- 1回失敗するごとに、次に何かを決めるときに、経営者は1つ豊かになった因果律のデータベースを参考にしながら、成功の確率を読もうとする。
- とはいえ、100%成功を予測することはできない。計画が計画通りいかないのは常。それ自体をいくら責めたところで、いかないものはいかない。大切なことは、当初組み立てた成功のシナリオのどこが崩れてきたかを早く発見すること(早くPDCAを回して、因果律を蓄積していくこと)
カンの体得には、失敗経験がベースとして必要だが(リスクをとってチャレンジしないとそもそも経験できない)、ある程度論理的に仮説をたて、ダメだった時にも早期発見して早くPDCAを回すことで早くなると。
少し前に、地頭に関して記載した記事と、「まとまった量でPDCAすることで量質転化を早める」という点で、似ている部分はあると思った。
良いセグメンテーションとは?
従来の常識を破るもの・創造性が必要
- 企業戦略のなかで、セグメンテーションほど創造性を求められるものは他にない。競合企業の気づかぬうちに、 新しいセグメンテーションを創り出す企業が勝ちを収める。
- うまくできたセグメンテーションは、 客になってくれそうな人々がどこにいるかを示すだけではなく、 客になってくれそうもない人々がどこにいるかも示してくれる
今回は、臨床検査機器を売るために対象とする医療機関をどうセグメントするかという問題。
日本国内に病院は約9000あり、この数字の状態ではマスマーケティング状態なので絞る必要がある。検査機器なので、ある程度検査回数をこなすニーズのある病院ということで、第一段階で200床以上の病院1000に絞っている。
ただし、これをさらにセグメントしなければならない。
この本では、結果的に下記のようにセグメントされた。
セグメンテーションは恣意的。捨てる部分を決めること
個人的に共感した部分を列挙
- セグメンテーションは恣意的なものであることをストーリーに織り交ぜている(なぜ、左右のセグメントの魅力度が一段ずらしなのか?二段ずらしではないのか?一番右下のセグメントを捨てるという判断をしたのはなぜか?など)。
- 「セグメントするためのデータが必要だが、データはどうやって集めるのか?」「その答えが見つかった時がセグメンテーション戦略の出来上がり」
→これは、本当に言い得て妙で、トートロジー問題に陥りがちなのだが、特に新製品で顧客もそんなにまだいない状況では、1人1人の顧客ニーズをどれだけ深く分析できていて、かつそれらの共通項を分類可能な明確なセグメント基準として括り出す必要がある。定量的なセグメントするデータが転がっているわけではない。
- 広川は、正直にいえば、このセグメンテーションに満足してはいなかった。何やら食い足りないし、あまり創造的とは思えなかった
→実際の現場では、限られた時間と情報をもとに、えいやっ!で、セグメンテーションを決め切らないといけないので、この葛藤はよく理解できた。その時点での自分達の顧客の解像度、すなわちどれだけ顧客に向き合い、ニーズを汲み上げてきたかが如実に反映される。
最初(5,6年くらい前)に読んだときは「こんなセグメンテーション、絶対思いつかない。ここまで絞るのか。果たして自分にできるのか」と打ちのめされたのを覚えている。
今回、ブログを書くために改めて読み返してみて、もし今の自分だったら診療科も候補に入れるかもしれない(と思ったが、クリアカットにセグメント切れるか不明なので次々点かも)
診療科:G検査を行うことで鑑別する代表的な疾患が属する診療科が強い病院 or 疾患症例数が多い病院→小説では、リンパ性白血病(血液内科)・ネフローゼ(腎臓内科)・リウマチ(膠原病)・肝硬変(消化器内科)などが記載されていたので、そういった診療科
ここで例えばよくある間違いは、「病院長のトップダウンで物事が決まる病院」とかをセグメント基準に置いてしまうこと。確かに、導入の早さという点で良いセグメント基準かもしれないが、で、トップダウンの意思決定の病院をどうやって定量的にセグメント切るの?となり、セグメントを切れない問題に陥る。
あと、あるあるなのは、セグメントを綺麗に切ることが目的になってしまい(手段の目的化)、必要以上に切り過ぎてしまい、戦略のシンプルさが失われてしまうこと。
今回の例だと、2×3のマトリクスに分けた後に、さらに競合状況をもとに2つにさらに分けているので、最終的には2×3×2=12の3次元で分けており、若干多いと感じるが、例えば、最初の2×3のマトリクスを仮に4×4=16でより綺麗にセグメントを分けることに成功できたとする。
ただし、実際には、セグメントを切ることが目的ではなくて、切ったセグメントに対して営業を実行し成約を上げていくことが目的なので、切ったセグメントを営業メンバーに伝えるのだが、切りすぎてしまいシンプルさが失われてしまい、理解が難しく、実行に移せないという問題が生じる。
戦略のシンプルさを保ちつつ、潜在的な顧客ニーズを汲み取り、多くても3×3くらいのセグメントに分けるというのは、もはやアートに近いだろう。
物語では、このようにセグメントしたことで、最重要ターゲットの病院群(A)を当初の1/10の92まで絞っている。そうすることで、下記のように、営業マン1人あたりの優先順位の病院数が決定し、営業マン一人一人はby nameでターゲットの病院名を責任を持って営業に取り掛かることができるようになる。
最初読んだ時は、セグメントしただけではダメで、個々の社員に具体的にby nameでターゲット顧客を可視化できるレベルまで落とさないといけないんだなということを痛感した。
営業進捗のコード化で社内共通言語を作り出す
今回の物語では、セグメントされたターゲットに対して、実際に商品を売っていくために、営業マンの行動の進捗を下記のようにコード化している。営業日報は廃止された。
このようにすることで、営業マンの間に新しい共通言語が1つ増えた。「XX病院は今D段階ですが、来週までにはCに持っていく予定です。」など
今までは成果が売上という形に実らない限り、営業活動がうまく進んでいるかどうか、本当のところが今1つはっきりしなかったのが、売上の手前で、進捗がある程度分かるようになったとのこと。
上記コード管理を、オンラインで可視化できるのが、KintoneやSalesforceなどSFAツール。基本的には、スタートアップの初期は、Googleスプレッドシートなどで営業進捗を管理していて、顧客数が多くなってきたり、売上がある程度立ってきたら、SFAツール導入してダッシュボードで可視化を検討しようとなると思う(メルプの場合はそうだった)。
とはいえ、コードを割り振るというアイデアは面白いなと感じた。アルファベット一文字という簡単な共通言語を社内に作り出すことで、会話するときに対象顧客のステータスがどの状態かが頭の中ですぐにイメージできそう。確か、この本読んだ後で、一時期取り入れていた気がする(その時は営業が自分1人だったので、自己完結だったが)。
というわけで、後半の紹介と感想終わり。今回また読み返してみて、勉強になる部分が多かったし、実践できてないなと反省する部分もあった。
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