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【人生後半の戦略書】想像以上に早くから始まるキャリアの落ち込みにどう対応すれば良いか?

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個人的には、2023年に読んだ本で、今後の自分の生き方と「キャリアの下降との向き合い方」を考えるのに最も影響を与えた本かもしれない。「ストライバーの呪い」という概念に絶望させられると同時に、納得もした本である。

原著(英語版)はこちら

残酷な現実:ストライバー(成功者)の呪いとは

この本は、ダーウィンの象徴的な話から始まる。ダーウィンといえば、「種の起源」で歴史に名を残した、紛れもない偉人だ。しかし、ダーウィンは種の起源を発表した後も、それ以上の新しい成功や創造性を追い求めるものの、年齢とともに研究の創造性に陰りが見え始める。晩年を迎えても彼は世間からの名声と高い知名度を保っていたものの、本人から見れば終わっており、本人はキャリア後半の落ち込みにより不幸になってしまった。

ただ、これは何も天才的なダーウィンに限った話ではなく、我々が想像しているより遥か前から、皆に等しくキャリアの落ち込みは始まる。中年期に入ると前頭前皮質の働きが落ちる。すると、素早い分析や創造的な発明が困難になる。

高いスキルを要する職業であればほぼ例外なく、 30代後半から50代前半にキャリアが落ち込みはじめます。耳が痛い話ですみません。でも、もっと悪い話があります。ピークが高ければ高いほど、キャリアは落ち込みはじめたら一気に落ち込むようなのです。

(中略)

必死の働きによりある分野で卓越した人たちは最終的に、不可避なキャリアの落ち込みに怯え、成功すればするほど満足できなくなっていき、人間関係の希薄さに悩むことになのです。

(中略)

落ち込みは二重の苦しみをもたらします。不満感を回避するには、常にこれまで以上の成功を収めないといけないのに、現状の成功を維持する能力は低下していくのです。いえ、実は苦しみは三重です。現状の成功を維持しようとすれば、仕事依存などの依存症的な行動パターンに陥り、不健全なほどそれにのめり込み、配偶者や子どもや友人との深いつながりを犠牲にしてしまいます。ランニングマシンから転げ落ちる頃には、抱き起こしてほこりを払ってくれる人は、一人も残っていないのです。

成功者を憐れむ人はいません。快適な生活を送っているストライバーが、「実は悩んでいるんです」と訴えたところで、 贅沢な悩みだと思われるだけです。

人生後半の戦略書

ストライバー(成功者)の呪いは、非常に残酷だ。

  • 我々は、スポーツなど身体に関しては20-30歳くらいでピークが来ることを受け入れるものの、頭脳労働に関しては、なぜか70歳くらいまで続くと考えている。しかし、そのようなことはなく、想像より早く30代から40代に急速に低下しはじめる。
  • 若くして成功した人ほど、訪れるキャリアの落ち込みに対して、落差に苦しみもがこうとして仕事依存症となるも、キャリの落ち込みは避けられずに、理由がわからずにさらに苦しむ。そしてその苦しみは周囲からは理解されにくい(成功者を憐れむ人はいない)。
  • それだけではなく仕事依存症になりすぎて、人間関係まで犠牲にしがちになる。

ここまで聞いたら、絶望して終わりということになるが、この本では幸いなことに対応策も記載してくれている。

流動性知能と結晶性知能

若いときは地頭に恵まれ、歳を取ったら知恵に恵まれる

人には流動性知能と結晶性知能という2種類の知能が備わっている。

流動性知能(生得的な頭の良さ。地頭)

  • 前頭前皮質が担う。推論力、柔軟な思考力、目新しい問題の解決力など。
  • 成人期初期にピークに達し、30代から40代に急速に低下しはじめる。発明家やノーベル賞受賞者が大発見をする時期は、30代後半が最も一般的。
  • ピークを過ぎると、気が散りやすくなり、マルチタスク処理が苦手になる。「ながら勉強」は大人のほうができない。子供にながら勉強は効率が悪いからやめなさいと注意するのは、子供ではなく実は大人の自分自身に対してのこと(皮肉すぎる)

地頭に関しては、下記ブログ記事で記載

結晶性知能

  • 「過去に学んだ知識の蓄えを活用する能力」で、年齢を重ねるほど向上する。晩年に入ったら指導に回る。
  • 晩年ならではの才能を活かす手段が相談を受けること。お金や権力や名声と言った世俗的な見返りを狙わずに、他者を指導、助言、教育すべきこと。
人生後半の戦略書

流動性知能から結晶性知能に飛び移る

というわけで、この本では、人生の前半を地頭で生きたら(第一の曲線、流動性知能)、それ以上の創造性や生産性による見返りを追い求めることなく、知恵で他者に奉仕する人生の後半だけに訪れるチャンス(第二の曲線、結晶性知能)に、早く飛び移れと説いている。

ただし、これは「言うは易く行うは難し」で、第一の曲線を飛び出るのは並大抵のことではないストライバーが今までやってきた仕事に励むことを、積極的に放棄しなければいけないのだから。ただデータは嘘をつかず、「今以上に働く」という戦法では、うまくいかない。

成功依存症に関して、ウォールストリーで大成功している女性の例が挙げられている。彼女は「私は幸福になるより、特別になりたいのかもしれないわ」と言ったという。幸福になることより特別になることを選ぶ人は、すでに依存症に陥っていて、そのくくりにおいては、アルコール・薬物依存症などと変わらない。

そうして、一見人生の勝ち組が50歳以降もこれまでの成功に固執した結果、仕事も家庭も残念な最期になる典型パターンに陥るという。しかも、成功の目標が達成されることは永遠になく、いくら成功しても、その高揚感は一両日もすれば消え、次の成功を探しに向かってしまう。

さて、結晶性知能にどのようにして移れば良いのだろうか?

結晶性知能に移るためにすること3つ

ここでは、結晶性知能を流動性知能より良いものにするための施策として、「人間関係を深めること」「精神性を探究すること」「弱さを受け入れること」の3つを紹介している。

人間関係を深める

  • 孤独は「1人でいること」を指すのではなく、「感情的にも社会的にも孤立する体験」のこと。意味のあるつながりを感じられないこと。孤独を和らげるために育てるべき最適な関係は、恋愛関係や親密な友情関係
  • 私と他者をつなぐ根をもっと意識することが重要。幸福の秘訣は「愛し続けること」
  • 配偶者を含めて最低でも2人の親友がいる人の方が「人生の満足度と自尊心が高く、抑うつ度が低い」という相関関係がある。

アメリカでは結婚がかなりの確率(最新のデータによれば、約 39%)で離婚または別居に至ることは周知の事実です。でも本当に重要なのは、同居しているかどうかありません。ハーバード成人発達研究のデータを分析すると、結婚そのものは老後の主観的ウェルビーイングに2%しか寄与していません。健康とウェルビーイングに重要なのは、関係の満足度です。

年配男性は、妻が友情を外に求めるようになったら、こうしたことを理解することが重要です。歳を経ると、男性は女性よりも、夫婦の絆が感情面の重要な支えとなります。男性の場合はたいてい、仕事のせいで友情をはぐくむ余裕がなく、数少ない友情といえば、感情よりゴルフでつながっている友情だからです。妻たちは感情の支えを求めて分散投資をしているわけで、はっきり言って、これは分別のある賢い行動なのです。

人生後半の戦略書

【人生】年齢とともに誰と時間を過ごすか?40歳から単調増加する1人の時間」で記載したが、特に晩年は夫婦の時間の方が仕事の時間より増える。仕事の時間(30-60歳)に夫婦の絆が深まっていないと、特に男性は老後の落ち込みがキャリア的にも人間関係的にも厳しくなる。

精神性を探究する

  • 現在に集中する。現在に集中すれば、より大きなもの、より良いものばかりに目を向けていると見過ごしてしまう小さな満足感を、現在の一瞬一瞬から得られるようになる
  • 自分が70億人の1人であり、宇宙の次元から見ればちっぽけな存在であるという視点を持つと、人間関係、仕事、自分の人生、お金などを広い視野から捉えられるようになる。

弱さを受け入れる

  • 苦しみや弱さは「避けるべきもの」ではなく、その体験から意義を見いだし、他者と分かち合うことが大切
  • 人の目を気にせずに弱さを分かち合えるのは、ある意味無敵。自然体でいられるようになり、もっと愛に溢れた人生になる。

クリエイティブな職におけるキャリア経験年数と平均的な生産性の関係

ちなみに、こちらが本で提唱されていた、流動性知能の落ち込みに関する元論文。

1997年なので25年以上前とだいぶ古いが、職種別にキャリアのピークの年齢が記載されている。頭脳労働のほぼ全てが30代後半から40代前半にピークが来ている。

この論文も一度しっかり読みたいのだが、基本的にはテクノロジーが進化しても人間の頭脳が飛躍的に進化することはない(AIと対話学習する藤井聡太さんみたいな例が今後出てくるかもしれないが)と思うので、一定の信憑性はある気がする。

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