【電子カルテ】政府は2030年までに全ての医療機関で導入できるのか!?

医療DXの推進に関する工程表
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2023年10月28日の日経の記事で、「政府、簡易電子カルテ開発へ 小規模病院の医療DX促進」というタイトルの個人的にはセンセーショナルな記事が飛び込んできたので、電子カルテ回りをリサーチしようと思う。

政府、簡易電子カルテ開発へ 小規模病院の医療DX促進 - 日本経済新聞
政府は2024年度に規模の小さい病院や診療所でも使いやすい簡易版電子カルテのシステム開発を始める。マイナンバーを活用して医療機関が診療・投薬などの情報を共有する仕組みをつくるには、小規模な病院や診療所の参加が欠かせない。マイナを活用し社会と...

医療DX令和ビジョン2030に関する詳細記事はこちら

医療DX推進本部とは

マイナンバー・マイナポータル普及に並々ならぬ意欲を見せている政府。

電子カルテ関連のニュースもちらほら出てきているので、現状をまとめてみようと思う。

政府は、内閣官房の下に「医療DX推進本部」なる組織を設置し、政府主導による医療DXを2022年から進めている。

医療DX推進本部|内閣官房ホームページ
内閣官房 国・地方脱炭素実現会議

医療DX推進本部は岸田文雄首相が本部長を、本部長代理を松野博一官房長官、加藤勝信厚生労働相、河野太郎デジタル相が務めるほか、本部員として松本剛明総務相と西村康稔経済産業相が参加されている。2022年10月に発足し、本部の下の「医療DX推進本部幹事会」で工程表策定に向けた検討を進めてきた。

2030年までに全ての医療機関で電子カルテを導入を目指す政府

こちらが、医療DX推進の全体の工程表。

出典:医療DXの推進に関する工程表(全体像)

細かいので、重要そうなところを抽出すると

2024年秋:現行の健康保険証を廃止

2024年度中

  • 概ね全ての医療機関・薬局で電子処方箋を導入完了
  • 医療機関や患者が電子カルテを共有するシステムを整備→政府が小規模な医療機関向け電子カルテの開発開始

2025年秋:保険証を使える1年の猶予期間終了。マイナ保険証の利用が原則に

2030年:全ての医療機関で電子カルテを導入

びっくり仰天するくらいのスピード感である。

電子カルテ普及率:診療所は50%弱にとどまる

政府は30年までにほぼ全ての医療機関へ電子カルテを普及させる目標を掲げている。2020年時点で病床が400床以上の大規模病院の91%が導入しているが、200床未満の規模が比較的小さい病院と診療所で50%弱にとどまっている。

ちなみに、診療所は全国で約10万件あり、ずっと横ばいで、毎年5000-7000件の新規開業があり、同じくらいの廃業があるというマーケット。

新規開業の際は電子カルテを検討する先生がほとんどで、その分の割合である約5%が診療所の電子カルテの普及率に寄与していくという感じ。なので、毎年、診療所の電子カルテ普及は5%ずつリニアに増加していって、今50%前後という状況。

出典:クラウド型電子カルテとは?普及率と今後の見通しなども解説

電子カルテの更新タイミング(オンプレミスの場合は約5-6年)で、他の電子カルテに乗り換えを検討する医療機関はあるものの、10年以上紙カルテを使っていて、クリアファイルの受け渡しで運用している医療機関(院長がご高齢など)が、電子カルテに切り替えるのは、なくはないけど、インセンティブ含めて非常に少ないので、二次関数的に電子カルテ普及が進むのは市場原理に任せていては起きないのではと個人的には思っている。

政府の並々ならぬ意欲と覚悟が見えるが、果たしてどうなるか?

システムの初期モデルはデジタル庁が開発する。具体的な仕様や医療機関側の費用負担は今後検討するらしい。

クラウド型の診療所向け(入院機能を持たない)の電子カルテなので、エムスリーのデジカルや、メドレーのクリニクス、DONUTSのCLIUS(クリアス)などが提供している電子カルテを政府が開発して、5年以内に全ての診療所に普及するということになる。

5年で全ての医療機関に電子カルテ導入って、民間からするとありえないくらいのスピード感だけど、強制力働かせればいけるんかな?

日本国内に診療所は約10万件あるが、5年で約半分の紙カルテ5万件に導入するということは、単純計算で1年で1万件、1ヶ月で800件の医療機関にシステムを導入していくことになる。

ちなみに、診療所向けの電子カルテは、民間だと、パナソニックのメディコムが1万件を超えてシェア1位だが、20年近くサービス提供しており(しかもオンプレミス型)、クラウド型の場合はエムスリーのデジカルがシェア1位だが、電子カルテ事業参入後、約9年かけてようやく5000件を超えた(つまり1年で1000件導入していない)というほど、市場原理の観点からいくと難易度の高いマーケットだと認識している。

単純計算でいくと、エムスリーの約20倍の速度で診療所むけに電子カルテを導入させるということになる。

出典:エムスリー2024年3月期 第二四半期決算説明資料

地方で、立地だけで固定客集客できていて、院長先生も高齢でクリアファイルで紙カルテ管理で、パソコンだと人差し指でどのキー打つか迷ってカタカタしてる医療機関全てが、7年後に電子カルテになった未来が想像つかない。

誰がどうやって電子カルテを開発するのか?

システムの初期モデルはデジタル庁が開発するらしい。

UI/UXを担当するということだと思う。

ちなみに、デジタル庁は、Figmaでデザインシステムを公開しており、最初見た時は、デザインガイドラインやコンポーネントの作成など優れていると感じた。

デザインシステム|デジタル庁
デジタル庁は、デジタル社会形成の司令塔として、未来志向のDX(デジタル・トランスフォーメーション)を大胆に推進し、デジタル時代の官民のインフラを一気呵成に作り上げることを目指します。

UXの部分は分からないが、少なくともUIに関してはある程度洗練された電子カルテができるのではと思っている。おそらく既存のクラウド型電子カルテ(デジカル・クリニクス・クリアスあたり)を参考にするであろうし。

マイナポータルに関しては、下記の記事のように、ベンダーに丸投げしていたのを、デジタル庁が主導で内部開発に着手してから、進み始めたとのこと。

丸投げを脱して「内部開発」に着手したデジタル庁、国にノウハウを残せるか
発足から1年半が経過し、デジタル庁が2023年度から「今できる調達改革」に動き出している。案件や分野を選別して、デジタル庁職員による「内部開発」や、中小ベンダーが参加しやすい新しい調達方式に本格的に取り組み始めた。

以前は、富士通やNTTデータ、アクセンチュアなどがほぼ受注を占めていたが、新規ベンダー参入を受け入れたとのこと。確かに、ニュースを見る限りでも、マイナポータル進んでいる感じはあるので、今回も同じような座組みで実装までいけるかもしれない。意外と急ピッチで開発を始めて、ものすごく早ければ1年以内に開発を終えるかもしれない。

となると、その後、どうやって普及させるかという問題になるが、ここも今、喧々諤々になっている「オンライン資格確認」の普及で溜めた知見を活かして、電子カルテの開発がおそらく終えるであろう2026年くらいから強行突破で始めそうな気もする。

顔認証付きカードリーダーを申込いただいただけでは、オンライン資格確認は導入できません。
オンライン資格確認端末(PC)の購入、レセプトコンピュータの改修等が必要です。
レセプトコンピュータのシステムベンダ等と相談いただき、導入の検討をお願いします。
ERROR: The request could not be satisfied

なんか、ブログをこうして書いていると、できそうな気もしてくるから不思議。

今、民間の電子カルテを導入しているところは乗り換えになるのだろうか?流石にそれは反発を喰らうだろうから、すでに民間の電子カルテを導入しているところは、そのままでも良いが、ベンダーはHL7規格対応してね、2030年までにとなるのだろう。

とはいえ、河野大臣がデジタル相を担当している今だから、これだけ進んでいるというのもあり、仮に今後担当を外れるとかなったら、なし崩しにもしくは長期化しそうな気もする。

電子カルテの価格どうなるの?

仮に、電子カルテを導入させることができたとして、価格どうなるんだろう? クラウド電子カルテの現在の相場は、月2-3万円くらいだが、国が恒久的に補助金で負担してくれるとは思えないし、もしそうするとなれば、UI/UX次第ではあるが市場原理に従って、民間の電子カルテを使っている医療機関の多くがなだれ込む可能性もある。

ちなみにオンライン資格確認システムに関しては、全部で30-70万円+月額ランニングコスト8800円といった感じで、全てが補助金負担になるわけではないとしている。

最初は補助金負担+義務化で押し切って、相場の価格で提供になるのかな?

もしこのまま政府が覚悟を持って電子カルテ普及を進めれば、官民ともに混沌とした世界になりそうだ。

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