【イシヤク】医師ファーストな薬剤アプリを目指して。医師向け薬剤比較アプリ「イシヤク」ができるまで

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皆さん、こんにちは。
医療機関向けにメルプWEB問診という、WEB問診サービスを開発している内科医の吉永です。

メルプWEB問診は、紙問診と電子カルテの運用の場合に、紙問診を毎回スキャンして転記するという、当たり前のようにやっていた作業を「あれ?この作業必要なのかな?この事務作業が減れば、もっと患者さんの悩みに時間を割けるのに」と感じたことがきっかけで開発したサービスです。

おかげさまで、現在900以上の医療機関にご利用いただき、最近では周りの知り合いからも「病院に行って使ってみたらメルプだった。簡単に記入できてビックリした」などとメッセージをいただくこともあり、嬉しい限りです。

さて、今回は、なぜメルプとは別に新しく、医師向けの薬剤比較アプリ「イシヤク」を開発したのかを書きたいと思います。

医師にとって最適なお薬アプリがない!

私は、メルプの開発をメインでやっているので、週1回だけではありますが、内科の外来と訪問診療をやっています。

外来で忙しい中
「このお薬の用量なんだったっけ?」
「このお薬手帳に記載されている薬剤は、どんな種類だったっけ?」
「血圧の下がりが悪いので、他のお薬に変えたいけど、どれにしようかな?」

など、様々な場面に遭遇します。その際に、医師にとってバイブルとも言える「今日の治療薬20XX」という辞書から探す場合もあれば、添付文書アプリから薬剤名を検索して探す場合もあります。

添付文書アプリは「ヤクチエ添付文書」「添付文書PRO」「添付ナビ」「薬の説明書」などすでにたくさん出ていて、私も今までにいくつか試してきましたが、どれも添付文書の内容をそのままアプリに落とし込んだだけで、パッと目的の情報に辿り着かないなという印象が強かったです。

添付文書アプリは辞書なので、すでに処方するお薬が決まっていて、用量や副作用だけ確認したいというように、目的が明確に定まっている場合は非常に有用です。

例えば、こちらはARBのミカルディスですが、この薬を処方することを決めていて、用量だけ確認したい場合は、ミカルディスで検索して用量の項目に飛べばパッと確認できます。

一方で、このように辞書的な感じで、「使用上の注意・薬物動態・臨床成績・薬効薬理」など項目ごとに延々と文字が続くので、ここまで見ている医師はほとんどいないと思います(私だけでしたらすみませんm(_ _)m)。

医師にとって忙しい外来で処方をするという意思決定の観点からいくと
・用法用量
・禁忌に該当しないか
・重大な副作用をパッと把握したい
・妊婦授乳婦はOKか
・高齢者や肝腎機能障害のある方への用量

これらの情報にいかに早くアクセスして確認できるか?
が重要だと思います。

ほとんどの添付文書アプリは、薬剤師向けに作成されていて、辞書をそのままアプリに落とし込んだ感じなので、網羅性はあるものの、医師の処方決定という軸で考えると全然最適化されていない、というのが私の考えでした。

薬剤変更や合剤確認には対応できていない

あと、検査のデータが悪いので薬剤を変更したい、とか、合剤の中身を確認したいという場合も意外と多いのですが、そうした場合には、従来の添付文書アプリではカバーされていません。

私が勤務している病院の外来には、こんな感じの合剤の表がテーブルに貼られていて、表を見ながら「この患者さんはコディオが処方されているけど、ディオバンとヒドロクロロチアジドの合剤なんだ」などと確認して、その後、処方を変更するか継続するかなど判断していました。

もちろん、全部頭の中で覚えておくに越したことはないのですが、自分がよく処方している馴染みのある薬剤以外は、どうしても忘れてしまいがちで、その場で調べたり、こうした表を見たりしていました。

こうした情報にも、一目でパッとアクセスできるアプリがあったら良いなと。

薬効検索が古いまま

さらにですが、例えば、フォシーガというSGLT2のお薬を調べると、薬効分類では「その他の糖尿病用剤」と記載されていて、「その他ってなんやねん?」と思うことが多いです。

すでにジェネリックも出ているネキシウムですらも、PPIではなく「その他の消化性潰瘍剤」と、その他に括られている始末。。。

医師としては、患者さんのお薬手帳を見たときに、例えば一般名の「ダバグリフロジンプロピレングリコール」ってなんのお薬だ?と思った場合に、「糖尿病のSGLT2阻害薬」に分類されるお薬ということがわかると「あー、あのグループに属するお薬ね」とすぐ想像がつくのですが、「その他の糖尿病用剤」と書かれていると「え?結局、どういう作用機序のお薬なの?」となって、ネットで調べたりと時間がかかってしまいます。

現に、私もそういう状況に出くわしたことがたくさんあります。全部の薬剤を把握しておけばいいのですが、20000以上もありますし、商品名ならまだしも一般名となると、とてもではないですが把握しきれません。

この薬効分類ですが、実は最初に作られて以降(おそらく1980年代?)ほとんど改定されていません。なので、どんどん新しいお薬が出ても「その他のXXX治療薬」に括られてしまって、正直分類の意味をなしていないことが分かりました。

ないなら作るか!?

今の添付文書アプリの課題は、感じてはいたものの

「文句ばっかりあげるくらいなら、自分で作ったらいいじゃん?全ては検証しないことには先に進めないので。」

と、自問自答すると同時に

「各薬剤の特徴文を記入して、薬効分類も0から作成となるととてつもなく大変だぞ」

という思いもありました。この時が2021年2月末。

薬剤特徴文の作成が鬼大変!?

大変とは分かっていた薬剤の特徴文作成ですが、想像以上に大変でした。死ねる大変さでした。

実際には、3月、4月は起きている時間のほぼ全て(1日14時間くらい)をこの薬剤の特徴文作成に費やしました。ここまで1つのことに時間を割いたのは国家試験の勉強以来でした。同じ作業をほとんど休むことなく1ヶ月続けると、精神が若干病むというのも経験できました(苦笑。

まず、各薬剤に関して、製薬会社が出しているインタビューフォームを読み、またその元となっている論文や、同じ薬効に属する他の薬剤との比較が掲載されていれば、その論文を読みました。

そして、こんな感じで、スプレッドシートに、各薬剤の特徴だけを簡潔に記していきました。

薬剤特徴文

薬効特徴文

製薬会社のインタビューフォームを読んだだけでは、他の薬剤との比較はわからないので、同効薬のインタビューフォームも全部読んだ上で、差分を抽出していきます。
インタビューフォームは公的な文書なので、差別化を打ち出すのは文言的に難しいのですが、何千と読んでいくうちに、「この製薬会社はこの薬剤のこの特徴を差別化として押し出したいんだな」ということが文章のニュアンスから分かるようになってきたのは、新しい発見でとても楽しかったです。

例えば、今、様々な新薬が出ていてホットな領域のJAK阻害薬ですが、

基本的には

  • 新しい作用機序の治療薬(上記だとJAK阻害薬)をどこかの製薬会社が発見する。
  • 次に、より選択的にJAKを阻害する薬が他のメーカーから出てくる(副作用が少ない)。あとは代謝を変えて、腎機能障害例でもうちのお薬は大丈夫ですよという差別化。
  • 一方で、一番初めに治療薬を出した製薬会社は適応拡大を狙っていくので、基本的には一番古い治療薬が保険適応が広いことが多い。
  • 新薬になればなるほど、効果と安全性は増していくことが多いが、ローンチ後は適応が限定される。

という流れが多いなと思いながら、製薬会社間の新薬開発のストーリーが垣間見えたりできたのは楽しかったです。

それにしても、私の専門外の診療科、特に、精神科、膠原病内科、血液内科、腫瘍内科の薬剤は分からなすぎて、四苦八苦しました。
精神科の、SSRI、SNRI、NaSSA、SARI、メジャートランキライザー、マイナートランキライザーとかどうやって使い分けたらいいねん!とか、JAK阻害薬・IL阻害薬・抗体薬物複合体・ALK阻害薬とか薬ありすぎ!と愚痴りながら、作成していました(汗。

また、私の方で作成した薬剤の特徴文に関しては、各専門医の先生にレビューいただきました。レビューとても大変だったと思いますが、快く引き受けてくださり、皆様本当にありがとうございました。
内容的には正しくても、実際の臨床の現場でその特徴内容を重視するか?というところは、専門外に関しては肌感覚が分からなかったので、フィードバックいただき、大変助かりました。

300件以上の事前アンケート!

私としては、「薬剤の特徴をパッと確認したい」「薬効検索もできたら良い」などのニーズを感じていたのですが、他の医師も同様なニーズを持っているかが分からなかったので、事前にHPを作成し、リリース前のアンケートを取りました。

そうしたところ、3ヶ月で360件ものアンケート、応援コメントをいただくことができ、「これは他の医師にとってもニーズがあるんだな」と実感することができ、アプリ開発のモチベーションになりました。

この皆様方からのアンケートがなかったら、あまりにも膨大な薬剤特徴文作成を前にして心が折れていたかもしれません。事前にアンケートに記入してくださった方々、本当にありがとうございます!

2021/7/15リリース!!

2021/7/15にようやくアプリをリリースすることができました!

現役医師が開発!医師が本当に欲しい薬剤比較アプリ「イシヤク」をリリース
株式会社flixyのプレスリリース(2021年7月16日 16時00分)現役医師が開発!医師が本当に欲しい薬剤比較アプリ「イシヤク」をリリース

アプリはiOSとandroidの両方でダウンロードできますので、ぜひ使ってみてください。

iOS

https://apps.apple.com/jp/app/%E3%82%A4%E3%82%B7%E3%83%A4%E3%82%AF/id1564870031

Android

https://play.google.com/store/apps/details?id=com.flixy.ishiyaku

薬剤データは毎月更新し、また、新薬の適応拡大や、ユーザーの皆様からいただいた特徴文改善提案なども毎月更新していきます。

各薬剤特徴文に「特徴文の改善を提案する」というリンクを表示していますので、気づいた改善点がありましたら、ぜひお気軽に提案いただけたら幸いです。

まだまだ、改善点が多々あると思いますが、どんどんアップデートしていきますので、引き続きよろしくお願いいたします。

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