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【メルプ⑫】PMF(プロダクトマーケットフィット)を達成した時の感覚とは?

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この連載記事では、当時ビジネスを全く知らなかった私(かず)が、初めて医療業界のSaaS「メルプWEB問診」を立ち上げて、約3年後に約200医療機関にサービスを導入した0→1終了のタイミングで2020年に株式会社JMDCに売却するまでの話です。当時、何を考えていたのか、失敗したこと、うまくいったことを振り返っていきます。圧倒的にリアルで生々しい、メルプのリアルを一緒に見ていきましょう。

前話までのあらすじ

かずは、医学部6年生の時に医療系のアプリ開発コンテストに参加し、そこで、後のメルプ共同創業者兼CTOとなる片岡と出会う。サービスアイデアを出し合った結果、WEB問診サービスに決まる。VCからの投資は断り、片岡にフルコミットしてもらい、LINEのチャットボットベースでの予約・問診システムを開発し、テレアポや飛び込み営業するもなかなかうまく行かなかった。コンテンツマーケを提案され100記事作成した後に、徐々にインバウンドでの問い合わせが来るようになり、

第11話はこちら>

読み物としての回想録部分は無料公開にしていますので、物語として楽しみたい方は全てのストーリーを無料でお楽しみください。関連するTipsや思考法の部分は有料にしていますので、ご興味のある方はご購入ください。

PMF(プロダクト・マーケット・フィット)とは何か?

私が考えるPMFの定義

よく言われる、「何か事業を起こしたら、まずPMF(プロダクトマーケットフィット)を目指せ。PMFを達成したら、事業の半分以上は成功したも同然だ。」となにかとスタートアップ界隈で話題になり、重要視されるPMFとは何でしょうか?

PMFにはいろんなサイトや本で定義が書かれています。例えば、こちらのサイトでは

https://www.utokyo-ipc.co.jp/column/pmf/

直訳すると「製品(サービスや商品)が特定の市場において適合している状態」のことです。言い換えると「カスタマー(顧客)の課題を満足させる製品を提供し、それが適切な市場に受け入れられている状態」

PMF(プロダクトマーケットフィット)とは?達成までの手順を解説

と記載されています。

色々定義はありますが、私は有料サービス(メルプのようなSaaSなど)と無料サービス(SNSなど)で2つに分けていて

  • 有料サービスのPMF:顧客が製品を有料でも購入して使いたいと感じた状態
  • 無料サービスのPMF:顧客がサービスにのめり込んで時間を忘れて使い続けている状態

だと考えています。新規サービスはnice-to-have(あったら便利だけど、このサービスを買うためにわざわざお金を払うことはない)止まりであることが多く、must-haveに昇華させるのが難しいのですが、must-haveになると、PMF達成したのではと思います。

どういう状態になったら、PMFを達成したとわかるんですか?

とはいえ、このPMFは、何を持って達成したと把握すれば良いのでしょうか?

先ほどのサイトでは、PMFの達成を図る際に用いられる基準として「Product/Market Fit Survey・NPS・リテンションカーブ」の3つが挙げられており、言語化した定量的な基準としては、その通りだと思います。

ただ、今回のこの記事では、もっと感覚的な「このサービスはPMF達成したな」と明確に感じる瞬間がどのようなものかを記載できたらと思います。ちなみに、私の場合、今までに、メルプと、その後JMDCの新規事業として立ち上げた、医師向け薬剤比較サービス「イシヤク」の2つでしか明確に感じたことはありません(いずれも主観的なものですが)。

個人的には、PMF達成したかどうかは、その場の顧客の熱狂度を目の当たりに体感することで自分が分かる部分がほぼ全てで、0か1しかない世界で中間がなく(1以外の小数点は全て0)、達成したことがないと永遠に感覚的に分からないという残酷なものという感じです。

真逆の例えになりますが、恋愛で、「この人のこと好きかも・気になっているかもと思い始めたら、それは好き」というのがありますが、その真逆のバージョンで「これPMF達成しているかも、達成したんじゃないか?」と思っている段階では、それはPMFを達成していないと個人的には断言して良いと思います。PMF達成後は、離散ではなく連続値の戦いになるので、顧客の要望に応じて、順次改善のPDCAをひたすら回せば良いのですけどね(という主観です。

PMFは離散。その後は連続

私の場合は、今までに他にも、お薬飲み忘れサービス「flixy」や、イヤホン型脳波「EarBrain」、難聴者向けの円筒型スピーカー「Clearly」などいくつかトライしましたが、それらではどれも「PMFを達成した」という感じは味わえませんでした(その前に撤退したというのもありますが)。

特にサービスを立ち上げたばかりの場合、友人や知り合いにサービスのアイデアやプロトタイプを見せたりすることがあると思います。この場合、リップサービスも含まれているので、本当にPMFを達成しているのかな?なんか違う気もする?と不安になることもあると思います。

ちなみに、「成功者の告白」という起業関連のオススメ本としてブログで紹介した本の中では

ひとりめの顧客というのは、創業したものにしか味わえない感動を与えてくれるんだ。自分のやっていることが認められる。それが人脈もないところから生まれる。それは創業社長が、一生に一回しか味わえない、それだけ貴重なものなんだな。今でも私は、その瞬間が映画のワン・シーンのように思い出せるんだよ。

(中略)

独立して軌道に乗るまでの一番つらい時期、一番自分が揺れる時期というのは、顧客を100人獲得するまでなんだな。その後は、正直なところ、忙しくて仕方がなくなるよ。まずは100人獲得した方法を繰り返すことに忙しくなる。

成功者の告白 神田 昌典

と記載されています。100人が閾値かどうかはサービスによると思いますが、その通りだと思います。

PMFを達成する前の苦悩:メルプの場合

メルプの場合、サービスとしてのPMFは

  • LINEベースのチャットボット問診ではなく、WEB問診にしたこと(2016年当時はLINEに対する医師会の風当たりが強く、ディスブランディングになった。今は風向きが異なりますので、タイミングも重要)
  • WEB問診サービスに選択と集中をしたこと(予約や患者アンケート機能を取り除いた)
  • 電子カルテに問診をBluetooth接続でワンクリックで送信できるようにしたこと

という、大きく3つの機能面での試行錯誤をした結果、PMFを達成しました。

それまでのLINEベースの予約と問診システムの際は、こちらから、なんとかアポを取り付けて飛び込みで営業して

「LINEのチャットボットをベースとして、クリニックが設定した空きコマから3つ自動で候補の予約時間帯が患者さんに通知が来まして、患者さんはLINE上でのチャットのやり取りだけで、予約時刻を選択でき、そのまま問診にも回答できます。」

「ふーん、そうなんだ。面白そうなサービスねぇ(反応が良い場合)」

「ありがとうございます。一度使ってみませんか?」

「うーん。なんとなく良さそうだけど、うちのサービスと合うかしら。予約システム入れると予約と飛び込みの二重管理問題もあるよね。(顧客は体が前のめりにならずに、考え込む感じ)」

「(色々とQAが続く)」

「そういえば、受付のバーコードリーダーや紙の診察券発行にも困っているんだよね。デジタル診察券とかできない?(全然サービスの課題とは違う、別の顧客課題を逆相談される=すでにメルプには興味ない)

「なるほどですね。・・・あのぉ、このサービスですが、もしよかったら、今無料トライアルしていますので、ぜひ使っていただいた感想も伺いたく、使っていただけませんでしょうか?」

「面白そうではあるし、あなたのチャレンジは応援したいので、わかりました(サービス価値ではなく、人の関係値に紐づいてしまっている)

「ありがとうございます!また伺いますね。」

(2週間後)

「その後、サービスの方、いかがでしょうか?もし改善点などあれば教えていただけたらと思い伺いました」

「あれね。ちょっと忙しくて、まだセットアップできていないのよ。」

みたいな感じになりました。

この時期にあるあるなのは、1つ目が、サービスの検証をしたいがために、顧客を1人でも捕まえたいがために、サービス改善にご協力いただければ無料で大丈夫ですと言ってしまうこと。もしくは、無料トライアルできますので、なんとか使っていただけませんか?とお願いしてしまうこと。結局PMF達成していないので、無料だろうが有料だろうがサービスは放置されてしまい、ずるずると無料トライアル期間を延長させてしまうことです。

この場合、無料だから使ってくれているのか?(nice-to-have)、本当に価値があると感じて使ってくれているのか?(must-have)の検証が難しくなります。あと、心理的に、無料で提供していたものを有料にあげるのは、特に1人目の顧客やまだ顧客を捕まえていない段階だと、かなりハードルが上がります。

ですので、個人的には、無料トライアルを最初から設けないで、「このサービスはXX円ですが、いかがでしょう?」と最初から価格を提示するハードスタンスで行くか、無料トライアルの場合でも最初から期限をしっかり切る(サービスにもよりますが、3ヶ月とか長く切っても最初の2ヶ月放置されてしまうことが多いので、運用まである程度スピード感持って持っていける期間で切ってしまう。2週間とか1ヶ月で短く切ってしまって、なんならその場で、ゴリ押しでも良いので時間を取ってもらってオンボーディングまでしてしまう。)のが良いと思います。

2つ目が、新規サービスにイノベーター層が食いつくのですが、より実用性を求めるアーリーアダプター層よりは、とりあえず新しい物好きという層も多いので、「単に面白そうだから食いついてみただけ」という感じで、振り回されてしまうことも多々あります。もちろん、ITオタクで自分で改造して、有益なフィードバックもどんどんくださる方も多いです。別に悪いことではないのですが、全然違う機能の追加提案や、サービス改善だけ思いついたようにいろんな方向から提案されて、仮にそれらを実装したとしても、移り気なので別にそれでサービスを使うようにはならないということもあるので、見極め(難しいですが)と距離感も重要です。本当に「言うは易く、行うは難し」なのですが。

さて、こんな感じで、PMFを達成したと感じる前は、お客さんからの反応が芳しくなかったのですが、機能改善をした後ではどうなったでしょうか?

PMFを達成したと感じた瞬間

メルプの場合:ある耳鼻咽喉科の先生にプレゼンしたところ

2018年4月、神奈川県の耳鼻咽喉科のクリニックから、HPにお問い合わせがありました。この時点で、メルプWEB問診はまだ2件しか導入されていませんでした。

「このサービスの導入を検討しています。XX月XX日にクリニックに来ていただけますか?」

お、問い合わせきた!えっと、どこにあるクリニックだろう?神奈川県のここか。最寄りの駅からバスで乗り継いで、このくらいかかるか。何時くらいに家を出て向かおう

などと考え、耳鼻咽喉科のクリニックに行きました。

指定された時刻は午前診療の終わりでしたが、クリニックに到着すると、まだ多くの患者さんが残っていました。1日100名以上の患者さんが来院されているとのことで、かなり繁盛していそうでした。ただ、会計待ちの患者さんがほとんどで、10分も待たずして、診察室に案内されました。

以下、院長先生とのやりとり

吉永

「初めまして。メルプWEB問診という問診サービスを提供しています吉永と申します。」

院長先生

「Webサイトで問診に関して検索していたら引っかかって、面白そうなサービスだなと思ったので、連絡したよ。サービスの説明始めてくれる?」

吉永

「わかりました。まず、全体のサービスの流れですが、クリニックのHPにWEB問診という名前のバナーを貼っていただきます。そうしますと、患者さんはHPのバナーをクリックして、このように問診回答ページに遷移します。問診サイトは全てブラウザなので、患者さんはアプリをインストールする必要はありません。そして、先生が事前に作成した問診内容を患者さんはチャット式で回答することができます。」

院長先生

「そこはHPのサイト見て分かっているんだけど、この患者さんの問診結果をどうやって電子カルテに入れるわけ?うちの電子カルテはオンプレミスのXXXなんだけど。(イノベーター層の顧客は事前にサイトで分かる範囲の情報は調べていて、分からない部分だけを聞いてくることが多い)

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