前回は、起業初期のマーケティングで「トラクション」という本を紹介したが、今回は、仕事と家庭関係についての本「成功者の告白」。
起業に関しては、ビジネス面での成功のノウハウや成功に至るまでのストーリーを書かれていることは多いと思うが、仕事と家庭に焦点を当てた本は少ないと思う。
確か、この本は、メルプ創業直後くらいに読んで(読んだ時は、まだ子供はいなかったが結婚はしていた)、ビジネス成功の負の側面の描写がリアルすぎて空恐ろしくなった記憶がある。読んでから、この本の内容のことが、絶えず頭の片隅にあって、特にビジネスがうまくいき始めた時こそ、家庭を大事にしないといけないと思って今に至る(実際に私ができたかどうかは、、、
あらすじ
この本は、独立からの5年間に起こる典型的な出来事を、複数の実話をベースにパターン化したもの。経営が軌道に乗っていくなかでの多くの「罠」について書かれている。起業家の身に起こることを、会社組織の面だけではなく、公私ともに書いてある点が非常に勉強になったし、初めて読んだ時は軽い衝撃を受けた。たとえば仕事に熱中していると家庭にフォーカスする意識が薄れてしまい家庭が崩壊しやすくなる、社長が浮気して家庭を壊しやすいタイミングなど。
ストーリー形式の物語で読みやすいし、読んでいくだけで、起業してから順次起こることが事前に知ることができる。事前に知ることで心づもりが出来るので、そのタイミングで起こることに対処することができる。特に起業前・起業直後の人におすすめ。
以下、勉強になったところを抜粋。
起業して成功するためには?
「タイミングだよ。つまり、いつ市場に参入するかが鍵なんだ。参入タイミングさえ間違えなければ、順調に会社は立ち上がる。」
成功するビジネスモデルのチェックポイント3つ
1)このビジネスまたは商品が成長カーブのどこに位置づけられているのか
- プロダクトライフサイクルの導入期もしくは成長期前半
- 成長期はその事業で得られる収益の80-85%が得られる。残りの15-20%を導入期と成熟期が分けるので、それぞれ7.5-10%しか儲からない。成長期には参入しない方が良いという意見もあるが、正確には成長期の後半は競争が激しいから儲からないということ。
- 成長期前半をどうやって見つけるかが鍵になるが、1つの方法としては既存市場のニッチを狙う。一見成熟した市場でも、専門化できるような隙間を見つければ、新しい成長カーブを作ることができる。この本では、外国人に特化したHP制作という成熟したHP市場のニッチという立ち位置で話が進む。
プロダクト・ライフサイクルに関しては下記参照
2)市場優位性:ライバル会社との比較で優位性があるかどうか
- 参入障壁が低いビジネスの場合は、立ち上げたビジネスが大きくなったら、次々と競合が出てくる可能性があるが、それを、起業当初から心配していたも仕方がない。スピード勝負で先行者利益をとることが重要。
3)ビジネスを継続するために十分な粗利が確保できるモデルか
- 大企業は資本力があるから粗利3-4割あればビジネスを成立できる→ベンチャーは、住宅のような高額品を売るのでなければ、最低5-6割は粗利が必要。
新規顧客の開拓方法
- 顧客を100人獲得するまでが大変
- その後は、忙しくて仕方がなくなる
- まずは客の声を集める。そして、その客の声を見せながら見込み客に商品を薦める
HPからの契約率の上げ方
- 大前提として、資料請求してから購買決定する際に、衝動買いができない価格帯の場合には少なくとも45-60日は悩む。
- 45-60日、できれば半年間は、資料請求した顧客をフォローする。具体的には成功事例レポートを送り続ける。あなたと同時期に資料請求された方は、もうすでにこんなに成功していますというように
- HP上に情報は全て開示する。情報が全て提示されていれば、今度は客は他社を調べる手間が面倒になる
ビジネスがスムーズに立ち上がるまでに、どうやって見込み客を集めるか(マーケティングの問題)、見込み客にどのように契約するか(セールスの問題)の2箇所は、起業家の誰もが直面する問題であり、その解決方法を知らないがゆえに成功を諦める人が多い。成功がほんの数センチ先に迫っていたとしても、その寸前でギブアップしてしまう。
ビジネスの成長段階における仕事と家庭の関係
あなたが思う以上に、ビジネスと家庭とは密接に関連している。
ビジネスが成長することで生じる歪みが、家庭にまで及ぶ。
第一段階
- 成功に向かって、一歩進み始める。この時期は仕事は辛く、家庭は円満
第二段階
- 成功に向かって見事離陸。プロダクトライフサイクルの成長段階に入る。この時期は仕事は好調、家庭で歪みが出始める。歪みは家庭の一番弱いところ、とりわけ子供を通じて現れ始める。
第三段階
- 成功の最終目標への分かれ道。この時期は仕事は好調だが、組織の人間関係で問題が勃発。家庭は、お互い期待をしないことでバランスを取る諦めムード
第四段階
- 仕事と家庭のバランスの回復(そうなれば良いが)。仕事においては人を指導する立場への脱皮。家庭においては主導権争いから相互依存への進歩
ビジネスが成長曲線に乗ってきた時ほど要注意
特にこの第二段階のビジネスが成長曲線に乗ってきた時に、家族とギクシャクし始める感じの描写が秀逸で
タク(主人公)が帰宅したのは午後10時
タクは、仕事での大型受注が決まったので、嬉しくてたまらず、妻に対して「XXXXの大型受注が決まったぞ」と伝えた。妻の喜ぶ顔が見たかった。
妻ユキコは「いい加減にしてよ、子供がやっと眠りかけたのに、起きちゃったじゃないのよ。。今までの努力が台無しよ!」
と怒りを爆発させる。息子のシンイチは起きて、パパの姿を見ると喜んでキャッキャと走り出した。興奮して寝れそうにない。タクはシンイチの遊び相手をし始める。
「そんなこと言ったって、会社が忙しいから、どうしても帰宅はこの時間になってしまうんだ」
「あなたが帰ってくると、子供が興奮するから、何もかもうまくいかなくなるのよ」
自分は一日中子供と格闘してきた。その子が今やっと寝静まろうとしている。その矢先、夫は突然帰ってきて、大声あげて子供を起こした挙句に、子供と遊ぶだけ。ユキコは、タクがいいとこどりしているのが気にならなかった。
タクはタクで、仕事から帰ってきた後も子供の面倒を見るほどいい夫なのに、妻からはねぎらいの一言もないことに気持ちが苛立った。
タクは仕事がうまくいけばユキコも喜んでくれるものと思っていた。ユキコに自分の成功を一緒に喜んでもらいたかったのだ。ところが現実には、仕事がうまくいけば、夫婦が顔を合わせる回数は少なくなってくる。タクが成功すれば成功するほど、夫婦の関係は気まずくなっていった。
ユキコは、頭では夫の成功を喜ばなければならないとわかっていた。しかし感情は複雑だった。夫だけが社会で活動して認められている。自分だけ置いていかれるのではないか、という不安。夫の自慢話を聞くたびに、その不安が頭を出した。子供の話をしても、タクは上の空で返事するだけ。自分の気持ちをわかってもらいたいがために、タクの仕事にはわざと無関心になっていった。
そうして、夫婦間には隙間ができていった。タクもユキコもそれに気づいていたが、自然に閉じるだろうとお互い思っていた。しかし予想は当たらず、その隙間は広がっていくばかりだった。
家庭に比べ、社内はパラダイスだった。タクは何も気を使う必要がなかった。タクが社長であり、上司もいなければ、性格の合わない同僚もいない。気遣いするのはクライアントだけという状況だった。
家族に理屈は通らない。妻に理屈を言えば、感情で押し返される。こうして、タクは一層仕事にのめり込むようになっていった。家族のために、仕事を一生懸命こなして、もっと稼げば、妻に対しても自分はいい夫であることが証明できるだろう。
(中略)
経営者の恋愛が起こりやすい時期がある。何千人もの経営者と接していると、同じパターンが見えてくる。恋愛が起こりやすいのは、成長期の前半なんだ。
ビジネスがうまくいき始めて、上記のように家庭がギクシャクし始めたタイミングで、なぜか不思議とビジネスのプレスリリースなどから昔気になっていた人から連絡が来たりする。もしくは社内の人が気になったりする。タイミングの問題もあるが、そうした連絡に対して目を向けるようになるというのもある。そうして、家に帰っても居場所がないし、外で一回会って話してみようとなり、親密な仲になっていく。
しかし、夫婦がもう一度向き合って絆を強くした場合には、新しい恋人とは別れる方向に進む。不思議なことに、夫婦が向き合った途端に、新しい女性は自然にいなくなることも多い。
逆に離婚して新しい女性と付き合うことになると、以前の奥さんと歩んだ同じ道を、また進んでいくことになる。
カリスマ経営者の家庭が崩壊している例は非常に多い。マスコミは、カリスマ経営者の光の部分だけを報道する。
知識がなければ、我々は感情の奴隷になり、パターンにはまり込む。
成功者の告白 by 神田 昌典
すごい引用が長くなったが、とにかく描写が裏の感情も含めてリアルすぎるのと、これは起業に限らず社内でどちらかが出世して、夜遅くに帰ってくる家庭とかにも起こりそう。
ちなみに、この本では、夫婦間の亀裂が進み、最終的には、タクが「誰のおかげで暮らしていけてると思っているんだ」という、最悪な経済面での主張をユキコに向かってしたことで別居状態となる。
先日、成田悠輔さんが日曜の初耳学で「自分の配偶者より幸せになってはいけない。」と発言して話題になっていたが、どちらかが「相手の方が自分より幸せ」と思った瞬間に夫婦関係にヒビが入るという内容を体現したかのようなストーリーである。
相手への思いやりが大事ということだと思うが、仕事が忙しかったり、育児が忙しかったりすると、そのことで手一杯で相手のことまで考える余裕がなくなってしまって、ギスギスしてしまうのは、とてもわかる。
ちなみにこの本では、タクのメンター役の神崎さんが
「タク、そろそろ家族とゆっくり休暇をとる時期だな」
と会社が軌道に乗ったタイミングで声をかけている。ちなみにタクは、「今、せっかく起業が軌道に乗ってきて、仕事が忙しすぎるのに、このタイミングで仕事休んで家族と時間作っている暇ないですよ」と、アドバイスを聞き流してしまう。
仕事は人生の幸福の大部分を占めるで重要で、仕事=人生の幸福という状態になっている人もいると思うが、豊かな人間関係が幸せに一番大きな影響を与えるという調査結果はあるので、人間関係にも同等かそれ以上に時間を割くというのは、特に仕事がうまくいっている時ほど重要なのだろう。
自分の場合はどうだったかというと、この本を事前に読んでいて頭の片隅に絶えずちらついていたというのと、0→1が終わって成長期に差し掛かる or さしかかった直後くらいでJMDC社に売却してグループインしたという理由などが相まって、今の所この状況には陥らずにきている。たまたまラッキーだったのかもしれない。
今回は、ビジネスと家庭の関係について主に触れたが、この本では他にもビジネスの成長と組織マネジメントの問題(売上を毎年二倍に増やす急成長企業も、堅実に安定成長する会社も、いずれにせよ創業四年もすると八割方はマネジメント上の問題に直面する。)とその解決策についても深く解説してあるので、興味を持った方はぜひ読んでみてください。起業したばかりの方は、ぜひ読んでおくことをオススメします。
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