この本は、ぶつ切りの打ち手ではなく(それはTODOリスト)、それぞれの打ち手がストーリーとして連関させることが戦略であり、その重要性を教えてくれた本。ただ、実践は非常に難しいと感じさせられた本でもある。
この本を読んで、楠木さんの本質を見抜く洞察力すごいと感じて、以降、大好きな著者の1人になり、著者の他の本や記事を読んでいる。
今、amazonリンクを開いたら、「お客様はこの商品を2016/4/29に購入しました。」とあったので、メルプを始める(2017年4月)前に購入していたのか。
静止画ではなく動画にする
その「戦略」のプレゼンテーションには、「X事業のV字回復戦略」とか、「新たなビジネスモデルの創出」とか、元気満々のタイトルがついています。タイトルだけでなく、実にいろいろな要素が盛り込まれています。市場環境やトレンドはどうなっているのか。ターゲット・マーケットとしてどのセグメントをねらうか。どういう仕様の製品(もしくはサービス)をどういうタイミングでリリースするか。プライシングはどうするか。どういうチャネルを使うか。どのようにプロモーションするか。どこを自社で行い、どこをアウトソーシングするのか。生産拠点はどこに置くのか。どういう技術を採用するのか。どういう組織体制で実行するのか。業績予測はどのようなものか。実に詳細に検討されています。 しかし、これでは「項目ごとのアクションリスト」にすぎません。そうした戦略の構成要素が、どのようにつながって、全体としてどのように動き、その結果、何が起こるのか。戦略全体の「動き」と「流れ」が、さっぱりわからないのです。戦略が「静止画」にとどまっているといってもよいでしょう。聞いている私が社外の人間で事情に疎いからわからないのかな、と思うとそうでもなくて、社内の人々も、個別のアクションについては議論をするものの、それが全体としてどう動くのかについては、意識してか無意識か、議論の俎上に載せないままやり過ごしてしまいます。
(中略)
戦略をストーリーとして語るということは、「個別の要素がなぜ齟齬なく連動し、全体としてなぜ事業を駆動するのか」を説明するということです。それはまた、「なぜその事業が競争の中で他社が達成できない価値を生み出すのか」「なぜ利益をもたらすの/か」を説明することでもあります。個々の打ち手は「静止画」にすぎません。個別の違いが因果論理で縦横につながったとき、戦略は「動画」になります。ストーリーとしての競争戦略は、動画のレベルで他社との違いをつくろうという戦略思考です。
ストーリーとしての競争戦略 楠木 建
確か、起業前?に読んだときは、「ふーん、そんな感じか」くらいで、重要性が分かっていなかったが(ビジネスの実経験がなかったので、理解が追いかなかった)、実際にメルプを始めてみて、試行錯誤していくうちに、また読み返してみて重要性をひしひしと感じた記憶がある。
今になってわかることは、本にも記載されているが、時間軸を踏まえた個々の打ち手の因果関係を逆算して考えるということなのだろう。
特に組織が大きくなってくると、部門ごとにやることが細分化れていく(営業・オンボーディング・カスタマーサポート・開発など)。そうすると、部門ごとに局所最適な打ち手をやっていたとしても、全体最適を考える人がいないと、結局個々で頑張っているけど、10+10=20どまりという加算的な結果にとどまりレバレッジが効かなくなる。
なので、経営戦略室の人や経営者は、個々の施策間の時間軸を加味した連関・因果関係を積極的に考えて、10+10=20ではなく、10×10=100という感じにいかにレバレッジできるかを考える必要がある。
サウスウェスト空港の事例
この本では、戦略がストーリーになっている優れた事例として、マブチモーター、セブンイレブン、ベネッセ、スターバックス、デル、アスクル、ガリバーインターナショナル、Amazonなど、様々取り上げられていたが、サウスウェスト空港の例が記憶に残っているので記載する。
あえて、ハブ・アンド・スポーク方式を使わない戦略
航空業界に後発参入したサウスウェスト空港は、当時航空業界で当たり前とされていた「ハブ・アンド・スポーク(拠点大都市経由)」方式を使わず、より小さな二次空港をつなぐという戦略をとったことが結果的に競争優位の源泉になり、他社と比較して高い利益水準を維持した。
航空サービスを考えたら、一般的には、ハブ空港(日本でいう羽田や成田・関空など)経由で旅行する人が多いので、大都市(ハブ空港)を抑えて、地方都市と結ぶ航路を拡充するとなりそうだが、サウスウェスト空港は地方空港間のみの運行に特化した。
そうすることで、下記の図のような戦略のストーリーを生み出すことに成功。
SP(戦略的ポジショニング)とOC(組織能力)の両方が重要
SPに関しては外面に現れるので比較的分かりやすいがOCに関しては組織内部のところなので、外からは分かりづらいが、SPは最終的に真似されるので、OCを強めて「真似してもらって結構ですよ」とSPを外出ししていってでも競争優位を保つのが重要。
例えば、先ほどのサウスウェストの事例では、OCは、「手の空いている人が臨機応変に助け合いながらターンチーム全員でオペレーションに取り組むことが重要」と組織に浸透させた部分。日本のメンバーシップ型に近い。
日本よりもジョブ型雇用で分業化が進んでいるアメリカにおいて、ターンチーム(地上クルー、客室乗務員、パイロット、整備員)などが、飛行機のターン時間の短縮のために、それぞれの職種が自分の仕事だけをするのではなく、例えば、客室乗務員やパイロットが荷物を処理するなど柔軟な分業体制が重要だとして、それを実行まで落とし込んだところがすごい。
給与も、個人に対してだけではなく、ターンチーム単位での報酬・評価体系(ターンチーム全体でのターン時間の短縮を評価にするなど)を導入して実行に落とし込んだ。
そうした、OC(組織能力)部分は、競合からは分かりにくいため、競合が「ハブ方式ではなく地方空港を直行便で結んでいるからサウスウェストは強いんだ」とSPばかり注目して、同じ組織体制でやろうとしても、うまく戦略が噛み合わずに(OCの部分が分からずに)自滅すると。なので、OCに基づいてSPをうまく構築できた企業は、むしろどんどんSPのノウハウを開示することが、むしろ表面だけを真似してくる競合が自滅するので、武器にもなるとのこと。
最初読んだときは、そんな考え方があるのかと目から鱗だった。
うまくいけば、競合からしたら、「参入して同じことをやっているはずなのに(SP)、どうして自社はうまくいかないんだろう?」となり、さらに外側の打ち手ばかり真似して泥沼にはまり込む。まさにアリ地獄である。
初期から完成されたストーリーはなかった
創業当初から上記図のような完璧なストーリーがあったわけではなく、外的要因で仕方なくこのようなストーリーを描くしかなかったという部分が半分あるというのは興味深い。怪我の功名の要素もあるとのこと。
サウスウェストが後発で航空業界に参入したときは、規制が厳しく新規参入企業は地方空港間の運行しか認められていなかったために、そこから戦略を構築せざるを得なかった。
ただし、それは半分正解で半分間違っており、経営者は初期の段階からストーリーの原型は作っていたであろうということ。そうでないと、優れた戦略ストーリーは描けないので。
軸を持ちつつも、外的要因に応じて臨機応変に対応することが重要なのだろう。
戦略ストーリーの「骨法10ヶ条」
この本では、最終章で、様々な成功したストーリー戦略の事例をもとに、共通論理を10箇条として抽出している。
骨法10箇条
- エンディングから考える
- 戦略の目的は、長期利益の実現。
- 実現するべき「競争優位」と「コンセプト」の2つをはっきりイメージする必要がある
- 競争優位は3つ:WTP(WillingnessToPay:顧客が支払いたいと思う水準)を上げるか、コストを下げるか、無競争状態に持ち込む(通常はニッチへの特化)か
- コンセプト:ターゲット顧客をセグメンテーションとしてはっきり出せるだけではなく、顧客の心と体が動くストーリーをどれだけ鮮明にイメージできるかが大事。顧客のセグメンテーションに関しては、「【起業・本】起業時に勉強になった本②:戦略プロフェッショナル シェア逆転の企業変革ドラマ(後半)」のブログ記事で記載。
2. 普通の人々の本性を直視する
- 誰に嫌われるかという視点が大切。誰からも愛される=誰からも愛されない。八方美人は禁物
- コンセプトの独自性を追求しすぎると、尖った顧客のみのターゲットになり、筋の良いストーリーは作れない。あくまで「普通の人々」を念頭におき、普通の人々の本性を直視することが大切
3. 悲観主義で論理を詰める
4. 物事が起こる順序にこだわる
- 個々の打ち手の、ありもしない「飛び道具」や「必殺技」などの、一目瞭然の派手な差別化ではなく、打ち手をつなげていく因果論理の一貫性こそが競争優位の源泉。個々の打ち手は地味に見えるが、全体として「似て非なるもの」を作り出す。
5. 過去から未来を構想する
6. 失敗を避けようとしない
7. 賢者の盲点をつく
- イノベーションのジレンマを生み出すと同じことを指しているように思う
- 部分の非合理を全体での合理性に転化する
- 賢者の盲点を見出すには、日常の仕事や生活の局面で遭遇する小さな疑問を蔑ろにせずに、なぜを考えることを惜しまない。
8. 競合他社に対してオープンに構える
9. 抽象化して本質をつかむ
10. 思わず人に話したくなる話をする
- リーダーは自分で面白いと思えるストーリーを作ることに尽きる。これは、話が上手いとかプレゼンテーションに長けているといった表面的なスキルのことではない。
- ちなみに、「【地頭】地頭とは何か。抽象と具体の往復運動を振れ幅を大きく、頻繁に行うこと!?」で記載した記事の途中の引用で紹介した地頭として、表現力(自分のイメージをきちんと他者に伝えるための力ですね。語彙の豊富さや、適切に例示、図示するスキル)が、地頭として表現される頻度は低いものの、スキルの希少性は高いと記載されている。
賢者の盲点とは
- 日常生活や仕事で不便なことの具体から考えて、それを抽象化したX(背後にありそうな問題)を考える。その後、また具体におろして、Xという背後の問題から派生している具体の問題に遭遇したら、これらは全部一緒の問題なんだと共通項を括り出す=ストーリーが太くなる
- 具体と抽象を行き来するという考えは、細谷功さんの「具体と抽象」にも書かれている。
この本を読んでから、メルプでも同じことができないかと考え始め、見よう見まねでSP構築の図を書き始めたのだが、その結果は、メルプのリアルで記載しようと思う。
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