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【傲慢と善良】辻村深月。自己評価の低さと自己愛の強さは同居しえる?

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2022年10月くらいに購入して、人間心理の描写の言語化力が高すぎると圧倒され、それから辻村さんの著書を、何冊か読み漁ったきっかけとなった本。

70万部を突破したベストセラーであり、2023年12月に映画化も決定した。

あらすじ

主人公・西沢架は、いつも通り帰宅した自宅に、同棲中で家にいるはずの婚約者・坂庭真実がいないことに気付く。突如失踪した真実の手がかりを探すべく、架は真実の過去と向き合うこととなる。

婚活・恋愛・ミステリー小説というよりは、人間心理を解像度高く描写した作品。

いくつか印象に残った部分をピックアップ。

婚活における相手がピンとこないの正体は?

「ピンとこない、の正体は、その人が、自分につけている値段です」 吸いこんだ息を、そのまま止めた。小野里を見る。彼女が続けた。 「値段、という言い方が悪ければ、点数と言い換えてもいいかもしれません。その人が無意識に自分はいくら、何点とつけた点数に見合う相手が来なければ、人は、〝ピンとこない〟と言います。──私の価値はこんなに低くない。もっと高い相手でなければ、私の値段とは釣り合わない」

「ささやかな幸せを望むだけ、と言いながら、皆さん、ご自分につけていらっしゃる値段は相当お高いですよ。ピンとくる、こないの感覚は、相手を鏡のようにして見る、皆さんご自身の自己評価額なんです」

傲慢と善良

丁寧な言葉遣いではあるが、内容はかなり毒舌。

同一人物に、傲慢と善良が同居する?

皆さん、謙虚だし、自己評価が低い一方で、自己愛の方はとても強いんです。傷つきたくない、変わりたくない。──高望みするわけじゃなくて、ただ、ささやかな幸せが摑みたいだけなのに、なぜ、と。

(中略)

「現代の日本は、目に見える身分差別はもうないですけれど、一人一人が自分の価値観に重きを置きすぎていて、皆さん傲慢です。その一方で、善良に生きている人ほど、親の言いつけを守り、誰かに決めてもらうことが多すぎて、〝自分がない〟ということになってしまう。傲慢さと善良さが、矛盾なく同じ人の中に存在してしまう、不思議な時代なのだと思います」

(中略)

「あの子は自殺なんかしないよ。自分のこと、大好きだもん。控えめ、目立つのが苦手──あとはなんだっけ? 孤独な恋が似合う、とか書いてたよね。孤独な恋ってなんだって話だけど。マイナスのことを書く時でさえ、自分のことを『似合う』って言葉で肯定するような、そういう子だよ。自己評価は低いくせに、自己愛が半端ない。諦めてるから何も言わないでって、ずっといろんなことから逃げてきたんだと思う」

傲慢と善良

「相手がピンとこない」の正体と、「傲慢と善良が同居する」に関して描かれている部分は、基本的に同じ部分からきている。

親や周囲から言われたこと・期待されていることを忠実に守って、善良に生きることで、自分の意思がなくなっていくので、他者評価依存になりがちで、それが故に、謙虚で自己評価が低くなってしまうのは分かる。

親も良かれと思って、子供に期待してしまう。子供は子供でとても敏感なので、親の反応をよく見ていて、「こういうふ風に行ったら親は喜ぶんだな」「こういう行動が喜ばれるんだな」と感じ取って親の期待に迎合していく。半ば無意識かもしれない。しっかり思春期を経て自我を確立し、自分の意思で主体的に人生を選択する方向に舵取りできればこの問題は解決できるかもしれない。

ただ、謙虚で自己評価が低くなるだけで、終わることはないという点がミソである。

善良に生きた結果、減点をしない生き方になり、自分が傷つく選択はしないので、同時に自己愛は増大してしまうという、ねじれ現象ともいうべき奇妙な現象が発生してしまう。

その増大した自己愛をもとに、本人も気づかないうちに、無意識の傲慢さによって相手を評価し、点数づけし、自分に相応しいかという色眼鏡で見てしまう。

とはいえ、インターフェースは、謙虚で自己評価が低いままので、「自分なんかが相手を選べる立場ではなのですが、お会いした婚活のお相手の方は、ピンときませんでした。」となる。

本人のインターフェースは「謙虚で自己評価が低い」ので、友達や婚活相談所も「お相手の方はピンと来ませんでした」と言われて、「それはあなたの自己愛が高すぎて、自分に高い点数をつけているからですよ」と、本人にストレートに指摘するのはためらわれるので、「ピンとこなかったんですね。次の人を探しましょうね」としか言えない。

無意識の傲慢さなので、本人もピンとこない理由に気付かない。さらに、周りの人も、本人の謙虚さゆえのオブラートな発言ゆえに、まず原因が分かりにくい。分かったとしても本人に指摘しにくいので、結局問題は放置されたままになり、蟻地獄に陥ってしまう。

自己認識を深めて、内面と外当たりを一致させることができれば(この場合は、自己愛が高いことに気づいて、外面も内面に合わせていく or 外面の謙虚さに内面を合わせていく、つまり自己愛を下げる。こちらは現実的ではないが)、問題解決になると思うが、内面と外面の乖離状態が、周囲からの期待を守って善良に生きることで構造的に生み出されてしまい、無意識ゆえ気付きにくいという残酷さがある。適切な自己評価は、他者との適切な関係性の中でのみ育つ。

話題は変わるが、自分が好きな婚活相談チャンネルで「ナレソメ®予備校の婚活戦略」というのがあり、ほぼ全ての動画を見ているのだが、そこからの金言を一つ。

https://www.youtube.com/@naresome_yobiko

「自分の心が整った方から婚活は成功する」

ピンとこない場合に向けるべきベクトルは、相手ではなく自分なのである。

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