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【メルプ③】医療機関向けの検索・予約・口コミサービスで、何が考慮漏れだったのか?

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この連載記事では、当時ビジネスを全く知らなかった私(かず)が、初めて医療業界のSaaS「メルプWEB問診」を立ち上げて、約3年後に約200医療機関にサービスを導入した0→1終了のタイミングで2020年に株式会社JMDCに売却するまでの話です。当時、何を考えていたのか、失敗したこと、うまくいったことを振り返っていきます。圧倒的にリアルで生々しい、メルプのリアルを、共に見ていきましょう。

前話までのあらすじ
主人公、かずは、医学部6年生の時に医療系のアプリ開発コンテストに参加し、そこで、後のメルプ共同創業者兼CTOとなる片岡と出会う。その時のお薬飲み忘れ防止IoTサービスは、3年を経てクローズしチームも解散することになり、また0から出発することに。そこに学生の時の同級生で眼科医をしている水上が加わり、3人の創業メンバーになり、サービスアイデアを出し合った結果、、、

第2話はこちら>

それでは、当時(2016年)に3人で考えていた、下記の主に3つの大きなサービスに関して、今振り返ってみて、考慮が漏れている点や実現可能性などを記載していきたいと思います。

1)医療機関向けの予約・口コミサービス:medYelp
米国ZocDoc(参考):https://www.zocdoc.com/
2)バイトしたい医師と受け入れたい医療機関を人材紹介を介さずにダイレクトにマッチングさせるサービス:medUber
・Uberのmedical版ということで
3)WEB問診サービス

案1)医療機関向け予約・口コミサービス:medYelp

当時作成していたパワポのスライドがあったので、原文ママ掲載したいと思います。

病院検索と予約の課題

  • 現状でもいくつかの病院検索サイトはあるが、見にくく、コメントの信憑性が不確かなため、実際に利用している人は少ない
  • 未だにほとんどの人が、googleで「〇〇区  内科」などと検索して、医療機関のHPを片っ端から見て営業時間か否かを確認しており、病院を探すのに非常に時間がかかっている
  • 予約システムがないために、その病院に行くことを断念する患者さんが多い
  • 紙の問診システムは、記載していない患者さんが多い→結局診察時に最初から症状を聞く羽目になるし、問診結果を電子カルテにタイプしなければならない

解決策:病院検索の食べログ版の提供

何かしらの予約サービスは、日本だと、食事なら食べログ・グルナビ、美容室ならホットペッパービューティーなど、すでに市場シェアを独占していてユーザーに第一想起されるサービスがあるのに、なぜか医療はないよねという課題意識を発端に出たアイデアですね。
アメリカは、医療機関ではなく医師個人を予約するサービスの大手でZocDocというサービスがあり、当時ですでに全米クリニックの40%をカバーするほどの市場シェアをとっていたと思います。今はさらに増えているかもしれません。

https://www.zocdoc.com/

そして、医師個人の予約詳細ページに行くと、予約できる時間帯と、amazonのレビューみたいに、実際に受診した患者さんのレビューがずらりと並んでいます。

日本では、まだこの手の病院検索+予約+口コミが一体となって、市場シェアをとっているサービスがないため、参入余地はあるのではと考えていました。

まぁ、みなさん誰もが考えつく、よくあるアイデアですし、今までに国内でもトライされた企業はスタートアップ・大手含めたくさんあると思います。過去にはリクルートも参入して、でも、今は人間ドック・健診の予約システム「マーソ」のみになっています。

https://www.mrso.jp/

国内の病院検索・予約システムは玉石混合状態

翻って、国内の病院検索・予約システムを見ると、玉石混合状態ですね。

まず、病院検索システムに関しては、こちらは病院ナビというサービスですが、PCベースで広告もたくさん入り込んだりして(結局広告ビジネスになっているので仕方ない部分もありますが)、情報がてんこ盛りになっており、ユーザーからするとシンプルなUI/UXになっていないので検索しづらいです。
結構古くから提供している会社が多いので、UI/UXも十数年前のホームページ風になっているところが多いですね。
似たような大手のサイトが7,8社くらいありますが、どこも似たような画面です。で、結局ユーザーはシンプルなUIですぐに目的の情報に辿り着けるgoogleで病院検索します。

病院予約システムに関しては、こちらも玉石混合・群雄割拠状態で、一番市場シェアが多いところでドクターキューブというサービスで4000件です。
4000件と聞くと多いと思うかもしれませんが、クリニックが国内で10万件あることを考えると、市場シェア4%しか取れていないことになります。しかもこの会社は15年近く病院むけ予約システムを提供している会社で15年かけて4000件という感じですね。もちろんすごいと思いますが。

https://jtc.doctorqube.com/

というようなことを考えて、ある程度リサーチはしたものの、「病院検索やどの医師が良い医師かわからないという課題は、患者さんからしたらあると思うので、シンプルなUI/UXの病院検索予約システムで、かつ、患者からの口コミもつければサービスとしていけるのでは?」という仮説で見切り発車でブラウザ版のモックをコード書き始めました。

さて、何が考慮漏れだったのか?

今振り返ってみて、このアイデアの足りなかった部分、詰められていなかった部分は何だったのかを記したいと思います。

1)アメリカと日本の医療保険制度の違いの考慮もれ

当時は、アメリカでは、ZocDocという全米シェア40%もとっているサービスがあったので、どうして日本に似たようなサービスがないんだろう?できるじゃん!と安易に思っていました。

ただ、よくよく考えると、日本とアメリカはクリニックへの受診の仕方がそもそも違うんですね。

米国では、日本のような皆保険制度ではなく、医療保険は自分で買う必要があります。医療保険を買うと保険会社から家庭医(かかりつけ医)のリストが送られてきます。その中から、自分の主治医を1人選びます。それ以外の医師にかかることは、原則的に出来ません。専門医にかかりたい時も主治医である家庭医の紹介状が必要になります。このように、米国では簡単には医者にかかれない仕組みとなっています。そして、家庭医にかかる時は基本的には予約制で飛び込み受診はできません。

つまり、そもそも病院を予約するという素地があるので、予約システムは受け入れられやすく広まりやすいと思います。

一方、日本はどうかというと、皆保険制度で全ての国民が平等に病院にアクセスできるようにする(フリーアクセス)という思想のもと、かかりつけ医のみにかかるのではなく、どのクリニックにも予約しなくても飛び込みでも受診できます。

2)予約システムに関する現場の課題の考慮もれ

つまり、病院側からすると、予約システムを導入したとしても、飛び込みの患者さんも基本的には受け入れて診察をする必要があります(特に保険診療の場合)。最近は完全予約制を謳っているクリニックもありますが、収益のことを考えると少しでも多くの患者さんに受診していただいた方が病院としても良いので、ウェルカムということになります。

そうすると、予約した患者と飛び込みで受診しに来た患者のどちらを優先させるのかが問題になります。この問題に頭を悩ませている開業医は多いです。

例えば、クリニックに10時に飛び込み受診した患者さんがいて、その時すでに想像以上に患者さんがすでに待っていて11時になっても前の患者さんの診察が終わっていなかったとします。その時に事前に11時に予約した患者さんがやってきました。この時、主に3つの方法があります

1)予約絶対優先で予約した患者さんを11時に診察する
飛び込み受診したとはいえ、すでに1時間も待たされている患者さんからしたら、どうして後からふらっとやってきた患者さんがそのまますぐに診察室に案内されているんだ!自分はいつまで待たされているんだ!と思い、受付スタッフにクレームを言いたくなるでしょう。
病院のスタンスにもよりますが「予約した患者様が優先ですので」と突っぱねてしまうと、飛び込み受診の患者さんは悪い口コミを書いて、病院の評判が下がるかもしれません。せっかくの新規顧客獲得のチャンスを失うでしょう。

2)すでに1時間待っている飛び込み受診の患者さんを優先する
こうなると、予約をとった意味がなくなってしまい、予約した患者さんはクレームを言いたくなるでしょう。せっかく予約したのに15分待たされたと。飛び込み受診の患者さんより、予約した患者さんの方が、その時間に診察してもらえるという期待値が高いため待ち時間にはシビアだと思います。

3)1と2の間をとる。
予約と、飛び込みでもすでに待合室で待っている時間とを天秤にかけて、うまい具合に都度優先を変える

開業された先生は、予約システムを導入した先生も、システム云々の問題もあるとは思いますが、主にこの予約患者と飛び込み患者の優先問題で頭を悩ませます。
結局3のスタイルをとることが多いのですが、ここを明確にルールづけすることは困難(飛び込み受診でもXXX分以上待ったら、その患者さんを予約患者より優先するなど)で、かつ、胸痛など緊急患者さんも途中でイレギュラー的に受診されたりすると緊急度が高いので優先的にみないといけず、そうすると診察時間もかかるわけで、残りの患者さんの全体の待ち時間も押してしまいます。あと、結局飛び込みの患者さんも来るので、予約システムと飛び込みの患者さんを二重管理しないといけない問題も実は受付スタッフの手間を考えると大きいです。

ですので、単に予約システムが使いづらいという問題よりは別の構造的な問題で、予約システム導入したけどやっぱりやめた、全員飛び込み受診でという方針に戻す医療機関もあり、2023年現在でも予約システムは全医療機関の2-3割しか普及していないと思います。都心部を中心に徐々には増えているのですが。

リクルートも2008年くらいに病院予約システムに参入していたかと思います。彼らはすでにホットペッパービューティーやホットペッパーグルメ、じゃらんなど他分野では検索・予約システムをハックして市場シェアをとっているので、相当な経験とノウハウが蓄積されており、それを病院にも横展開するだけなので、やりやすかったと思いますが、現在は検診・人間ドックの検索予約システムに止まるのみになっており(Airリザーブなども展開していますが)、その原因の大きな一つとしては上記が挙げられるのかなと思います。

当時はそこまでリサーチしていなかったのですが、誰でも思いつくアイデアで大手がやっていないのは、何かしら別の理由があるはずで、それは何なのか?そしてその理由は自分たちなら乗り越えられそうなのか?は事前にじっくり考える必要があったと思います。

3)UI/UXだけでハックできると思っていた

上記に上げたような予約システムが普及しない構造的な理由があったのにも関わらず、そのコアの問題の解決策には目を向けずに(リサーチ不足でそもそも認知できていなかった可能性もある))、表面的なUI/UXの改善でどうにかなると思っていたのも考慮漏れだったと思います。

確かに、既存の病院検索・予約サイトは情報過多でごちゃごちゃしていて使いづらいのですが、そうした目に見えやすいUI/UXは指摘しやすいので、そこを解決すればサービスもうまく刺さるだろうと安易に考えて満足してしまったという点が反省です。

というわけで、当時考えていた病院検索・予約・口コミサービスを今振り返ってみました。振り返ってみて、今このサービスに参入するかと言われると、私はノーですね。

ただ、どの病院を受診したら良いかわからない(一般的な風邪だったらニーズ少ないと思いますが)・予約できる病院が少なくて不便などのユーザー側の課題は依然としてあると思いますので、今後誰かが病院版のホットペッパービューティーのような検索・予約・口コミプラットフォームを作ってもおかしくないと思います。

本当は、バイトしたい医師と受け入れたい医療機関を人材紹介を介さずにダイレクトにマッチングさせるサービス「medUber」についてもこの記事に記載しようと思ったのですが、予約サービスの振り返りで思ったより字数が増えたので、次に回したいと思います。

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