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【メルプ⑩】PMF:売れない理由を分析せず、総花アプローチへ

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この連載記事では、当時ビジネスを全く知らなかった私(かず)が、初めて医療業界のSaaS「メルプWEB問診」を立ち上げて、約3年後に約200医療機関にサービスを導入した0→1終了のタイミングで2020年に株式会社JMDCに売却するまでの話です。当時、何を考えていたのか、失敗したこと、うまくいったことを振り返っていきます。圧倒的にリアルで生々しい、メルプのリアルを、共に見ていきましょう。

前話までのあらすじ
かずは、医学部6年生の時に医療系のアプリ開発コンテストに参加し、そこで、後のメルプ共同創業者兼CTOとなる片岡と出会う。医学部の時の同級生で眼科医の水上が加わり、3人の創業メンバーになり、サービスアイデアを出し合った結果、WEB問診サービスに決まる。VCからの投資は断り、片岡にフルコミットしてもらい、LINEのチャットボットベースでの予約・問診システムを開発し、テレアポや飛び込み営業するもなかなかうまく行かず、、

第9話はこちら>

PMFまでの紆余曲折

メルプはPMF(Product Market Fitの略。顧客が満足する商品を、最適な市場で提供できている状態)達成までに、サービスを開発してから1年弱かかっているのですが、今回はその中でも、総花的なアプローチに舵切りをして泥沼にハマった部分を記載します。

総花アプローチで泥沼にハマる

さて、LINEチャットボットをベースとして、医療機関の予約・問診サービスを開発して、営業したところ全然売れなかったので、(なんで売れないんだろう?)とメンバー間で話し合っていました。

その中で

「やっぱり、機能が予約と問診の一部しか提供できていないからじゃない?もっと包括的にクリニック運営をITサポートするサービスにすれば良いんじゃない?

電子カルテをいきなり開発するのはハードル高いから、診察を終えた後の会計や患者アンケートなどをデジタル化してさらにサポートするのはどうだろう?」

というアイデアが出て、それを聞いた私は、それもそうかな?と安易に飛びついてしまい、サービスのラインナップを広げたプレゼン資料を作り始めました。

これは、今振り返ると、最悪の意思決定で、この後さらに泥沼にハマっていくのですが、当時は飛びついてしまいました。当時の資料を掲載します。

2017年12月までにとかよく記載したなと(非現実的)

総花的アプローチの何がいけなかったのか?

上記のプレゼン資料、一見すると良さそうに見えると思うのですが、何がダメだったのでしょう?

現時点での売れない理由を深く分析せずに、nice to haveの70点の機能を多く追加することに舵切りをした

ことが最大の理由だったと思います。

WEB問診が刺さっていない理由を深く分析しサービス改善することなく、単に機能が足りていないからという浅い理由で、周辺の機能を付け足してしまい、顧客からすると、幕の内弁当を食べているみたいになってしまい、結局このサービスは何が売りなのかが分からないという状態に陥っていました。

具体的にいうと、この段階では、LINEの予約・問診になっており、かつ当時のプロダクトではWEB問診の部分も「医師が自由に問診をカスタマイズはできない」「電子カルテとの連携はできない」状態でした。

今のメルプWEB問診が売れている理由として、私は

医師がレゴブロックのように自由にWEB問診をカスタマイズして作成できる→自分の聞きたい質問を事前に聞けるので、患者さんが診察室に入った時には70%程度診断はすでについているので、診察時間の短縮にもなるし、診断には直結しないけれども重要な患者さんの不安や悩みに耳を傾ける余裕が生まれる
全ての電子カルテにBlueToothを用いて連携して、問診データをすぐに電子カルテに送信できる(最近は、API連携している電子カルテもあります)

の2つが大きいと思っていますが、当時は、WEB問診に上記2つの機能は備わっておらず、WEB問診が売れていない理由を深掘りしないまま、安易に、予約や患者アンケート、LINE payを用いた決済機能があれば売れるんじゃないかと判断してしまいました。

加えて、特にスタートアップでは(1000人以上の大企業で新規事業を始める場合も、大体は割ける人数は数人〜数十人だったりするので、大企業の新規事業の場合も当てはまる)リソースが少ないので、あの機能もこの機能も開発となると、とてもではないですが間に合いませんし、全部が中途半端なサービスになってしまいます。

ですので、私がこの時にやるべきだったのは、
・サービスの対象領域を絞り込む(やらない領域を決める)
・絞り込んだ領域のうち、売れていない理由を深掘りして、誰も気づいていないキラー機能を見つける

の2つでした。一旦、70点の相場なアプローチに向かってしまい、上記プレゼン資料で2,3ヶ月医療機関を回ってプレゼンしたりして、反応が薄いことを確認した私は、その後

・予約サービスをやめる(問診のみに絞り込む)
・LINEからWEBに切り替える(これは別の理由で医師会の反対によりディスブランディングになってしまったことが大きいです)
・WEB問診カスタマイズ機能を3ヶ月かけて開発
・Bluetoothを用いた電子カルテ連携機能を開発

の4つをやって、WEB問診としてキラー機能を押し出す方向に舵切りをして、ようやく少しずつ売れ始めるようになりました。

イメージとしては、ステーキと幕の内弁当。
サービス開発は、メインがステーキなら、まずステーキをいかに美味しく作るかを考えて、それができてから、副菜(人参やブロッコリー、ポテトなど)を添えましょう。
ステーキが美味しくない理由を深く分析しないまま、他の70点の機能をてんこ盛りにして幕の内弁当にするのは避けましょう(幕の内弁当が美味しくないと言っているのではなく、あくまで例えです)

機能を極限まで絞り込む

特に初期ローンチの段階では、「やらない機能を決める」ことがとても重要だと考えています。

ダーツのブルだけを狙いにいくイメージです。ブルを狙わないまま、周辺にダーツを刺しまくっていても、顧客からは「確かにあったらよさそうだけど、お金を払うまではないかなぁ。」となり、収益を上げることは難しいです。

ただ、これは「言うは安く行うは難し」で、いまだに自分も他の新規事業で陥ったりします。

特に初期はリソースもないので、機能を極限まで絞り込んで、その機能では競合に負けない120点状態で出して、顧客を捕まえる。うまくいってサービスが売れてきたら、その後から周辺機能(予約・患者アンケートなど)を開発していくと進めていくことが重要だと思います。

キラー機能をキャッチコピーに

初期のキラー機能は、多くても2つ。できれば1つが良いと考えており、それがそのまま、サービスサイトのトップページのキャッチコピーになります。

例えば、先ほどのメルプWEB問診の例でいうと、今はキャッチコピーが異なりますが(プロダクトフェーズが変わっているため)、最初の頃は

「自分好みにWEB問診を、すべての電子カルテに自動連携」
というキャッチコピーにしていました。

・問診カスタマイズ機能→自分好みのWEB問診を
・Bluetooth連携機能→すべての電子カルテに自動連携

という感じですね。

ただ、これが仮に、LINEを用いたクリニックの予約・問診・会計・アンケート機能だったとすると

「クリニックDXをトータルサポート」

みたいなフワッとしたキャッチコピーになっていたでしょう。一旦どれかの単機能で売れて、その後サービス群を拡張した後なら、認知も相まってありかもしれませんが、初期の打ち手としては弱くなってしまい、nice to haveで終わる可能性が高いかなと思います。

他社例だと、
・GMOサイン:法的に有効なクラウド型の電子契約サービス
法的に有効な:今までの紙に署名・印鑑の場合と比べると法的にどうなの?と心配するユーザーが多いので、「法的に有効な」と記載

・メルカリ:スマホでかんたんフリマアプリ
スマホでかんたん:今まではPCベースのヤフオクが市場の中心だったので、スマホで楽にできますよというメッセージをユーザーに訴求。

となっており、どれもspecificでキャッチコピーだけで、どんなサービスか分かりやすいですよね。まぁ、メルカリの場合は、フリマアプリという概念が現在は浸透しているのでこのワードでも良いというのはありますが。

というわけで、途中から取り留めない話になってしまいましたが、プロダクトが売れない理由を深掘りせずに、安易に総花的なアプローチに舵取りしてしまい、さらに2,3ヶ月間、泥沼にハマりました。
そんなこんなだったので、資金繰りに苦しくなり、2回会社倒産の危機を迎えることになり、その時の話を次回記載したいと思います。

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