大企業で新規事業が生まれにくいのはなぜ?
よく大企業で新規事業コンペなるものを開催して、優勝したチームには資金をまず数百万円など小額から開始し、3ヶ月おきにマイルストーンを設定して、クリアしたら次はより大きい額の支援をしてとしているところがありますよね!?具体的な企業名が思い浮かんだ方もいるかもしれません。
企業は同じサービスのみで永続的にグロースし続けることは不可能なので、どこかのタイミングで、新規事業に手を出して第二・第三の収益の柱を作っていかないといけません。
エクセレントカンパニーになるためには、再投資が不可欠という点に関しては、三枝さん著「戦略プロフェッショナル」の感想記事にも記載しました。もし、ご興味のある方は、合わせて読んでみてください。
しかし、第一の収益の柱を作った創業者は、すでに経営の方で忙しく自ら先導して第二・第三の事業の立ち上げをしていくのは、物理的に難しかったりします。一方、サラリーマン経営者の場合、すでに収益を上げている新規事業は、先代が作っている場合もあり、社内で新規事業の経験がないという場合もあったりします。
という訳で、「誰か、新規事業を立ち上げてくれないかー!?」となり、新規事業コンペなるものが遅かれ早かれ開かれることになります。
ですが、よく知り合いの経営者からも話を聞きますが「コンペ開催しても、プランが浅く、よく練られていないことがほとんどなので、結局自分がやった方が早いんだよねぇ。。。」となることが多いようです。
どうしてこんなことになってしまうのでしょうか?
理由は大きく2つあると思います。
人選ミス:大企業における、KPIで測定できる優秀な人材を新規事業に当ててしまう
大企業のほとんどは、すでにあるサービスをいかに伸ばすかに人材が当てられていて、グロースのKPIをしっかり忠実にこなせる人が優秀な人材として評価されます。数値としてもしっかり表れるので客観的にも評価されやすいです。
Aさん
「今月の受注件数はXXX件で、お申し込みがXX件に対して、このような商談を行い、成約率はXX%でした。webサイトの方の改善も行いCVR●●%改善しました。」
部長
「やっぱり、Aさんは、営業実績も出しているし、プレゼンも無駄がなくて優秀だな。よし、Aさん、そろそろうちの社も何か新しい取り組みをしていかないといけないと思うんだよね。AIとか5Gとか来てるしさ。エースの君に任せるから何かプラン考えてきてよ。」
Aさん
「。。。。はい、わかりました。」
同僚
「やっぱり、Aさんさすがだなぁ。うちのエースだもんなぁ。今回の営業もトップだったし。次は新規事業だってよ。」
一方、新規事業は、そもそもPMF達成まではKPIがない(唯一のKPIは熱狂的なファンを1人見つける)ので、求められる能力が異なります。解答がない中でいかに早くPDCAを回せるか?抽象と具体をいかに早く行き来できるかが求められる能力になります。
ですが、大企業の経営幹部も求められる能力の違いに気づいていない場合が多いので、「あの優秀なXXXさんを中心に新規事業を任せよう」となりがちです。
新規事業を作っていける人材は、KPIで測りづらいので、大企業内の評価では埋もれてしまっているケースも多いです。ここが難しいところですね。大企業で新規事業を作れそうな人が恒常的に評価されづらい環境になっています。
Bさん
「あのぉ、顧客からこうしたクレームを受けていまして、やっぱりオンプレのままだと、不具合も多いし開発コストもかかるので、この際抜本的に変えてクラウドをメインにした、このような機能に変えるのはどうでしょう?」
部長
「え!?いや、それは長期的にはそうかもしれないけどさ。別に今のうちの製品順調に売れているじゃん。しかも抜本的にって。そんなことやり出したら2,3年はかかるぞ。それより、まずは、今月の受注件数たったの2件じゃないか!?まずは自分の営業トークを改善したらどうだ!?Aさんを見習ってみろ」
Bさん
「はい、、わかりました。。。」
部長
「ったく、Bさんは。営業成績ちっとも上がらない割に、うちの製品の文句ばかり言ってきて。よくわからない改善点ばっかり言ってくるし。どうにかならんもんか。。。」
社内を通すためのプレゼンになりがちで、本質からずれてしまうため
新規事業コンペに応募する社員は、社内を通すためのプレゼンになりがち(上司を納得させる・大きい市場を狙わないといけないなどのバイアス)で、意識すればするほど本質を見失います。
本来であれば、コンペを通すためのプレゼンではなく、自分で会社を抜け出してでも起業したいほどのサービスを会社に提案するのが良いのですが(zoomの創業者は元ciscoの技術部長でciscoのwebexの不便さを顧客から受けていたために自ら改良版を提案しに行ったが、社内で却下されたためzoomを創業しました。)、そうした提案をする人は稀であるか提案したとしても評価されずに埋もれています。
また、タイミングも合わないかもしれません。「新規事業を1ヶ月以内に考えろ」とお題目を出された時に、新規サービスのアイデアを思いつくとは限りません。通常の業務の中で顧客との接点をもとに、新しいサービスを思いついたり、ふとした仕事以外の出来事で思いついたりする場合がほとんどだからです。
あとは、社内を通すプレゼンになってしまうと、仮にコンペを通ったとしても、本人の熱量が続かずに沈没してしまいます。
例えば、売上50億円を将来的に達成できるような市場を狙ったサービスを作らないといけないとして、それに合わせたプレゼン資料を作成したがために、サービスを提案した人は、本当は最初はこの市場からではなくもう少しスモールスタートしたいなど、若干本人が100%やりたい事業からはずれてしまっているケースが多いでしょう。
そうなると、3ヶ月後のマイルストーン審査までに、これとこれとこれは検証しないといけないという余計な項目も増えてきたりして、だんだん本人のやりたかったサービスとずれてきて、熱量が続かずに尻すぼみになってしまいます。
さて、このような理由が挙げられる中で、大企業で恒常的に新規事業を生み出し、エクセレントカンパニーになるにはどのようにすれば良いのでしょうか?
大企業で恒常的に新規事業を生むにはどうすれば良いのか?
プロダクト発明家とアーキテクトをリストアップして探す
この問いに関しては、「爆速成長マネジメント」という本に書かれているマーク・アンドリーセンのインタビューが参考になるので紹介します。ちなみに、こちらの本は、ベンチャーで働く HARD THINGSをまとめた書籍で、事例インタビューが豊富で参考になります。分量多いですが。
原著(英語版)はこちら
ここでは、第二の主力プロダクト(新規事業)を作る場合、どのように取り組むのか、既存事業とどのくらいの割合で力を割けば良いのかなどについて質問していますが、アンドリーセンは適正な割合はないとしています。
例えば、1000人の社員がいる会社の場合、新規事業に3割投資したいので300人引っ張ってきて、新規事業作りましょうとはならないということですね。
新製品のコンセプトを具現化できる素晴らしいプロダクト発明家が社内に何人いるのか、そしてプロダクトを実際に開発できるアーキテクトは社内に何人いるか、これが全てであり、曖昧な人数の割合や人が多ければできるという問題ではなく、個々人のレベルで「この人は新規プロダクト開発に向いているか」を精査し、まずはリストを作成します。時々、プロダクト発明家とアーキテクト(プログラマー)の両方の能力を同一人物が備えていて、1人から生まれることもあります。
副業でサービスを0→1で立ち上げて成功している人・社内で自ら新規サービスの提案をしている人(が、評価軸が異なるために日の目を浴びていない)などが候補になります。先ほどのBさんなどですね。
ちなみに、そうした人材は、googleほどの大企業であっても十数人いるかいないかなので、とてつもなく少ないということを認識しておく必要があります。創業者しかできないという場合もザラにあるでしょう。 ChatGPTを開発したOpen AIの初期メンバーは20名くらいという話もありました。プロダクトのコンセプトを考える人と、エンジニア合わせて多くても十数名ということなのでしょう。
場合によってはM&Aで手っ取り早く、創業者をアクハイヤーするのも良いでしょう。M&Aの視点なら、プロダクト発明家とアーキテクトを買収で何人得られるかを考えます。
PMF達成までは、少人数のプロダクト発明家を中心としたチームを組成
そして、プロダクト発明家を中心に「少人数3-5名」のチームを作ります。大人数でブレストなど愚の骨頂で、ブレストすればするほどサービスは多機能になり本質からずれていきます。新規事業の開発には独自の思考と高速の実行スピードが要求されるため、小規模チームで運用する以外に道はないでしょう。
そして、彼らはフラットな組織を好むことが多いので、特に制約を設けず自由に開発をさせます。
抽象力が高く、0→1の答えのない新規事業を模索するのを嬉々として楽しむ人は往々にして自由を好むことが多いので、「3ヶ月以内にこのメルクマークを達成しないといけない」などとして縛るのは、管理したい大企業側の気持ちとしては分かりますが、逆効果ということですね。
そういう点では、ソニーコンピュータサイエンス研究所(Sony CSL)とかは、かなり独立して新規技術に関する研究に取り組んでいて、その研究ネタを事業化するパイプ役の人は別にいて、どうやって事業化していくかをメインに取り組んでいたりしていると聞いていますので、創発的なプロジェクトが生まれてくる環境にあるのかもしれません。
そうして、少人数のプロダクト発明家を中心としたチームでPMF達成まで終わったら、次のグロースの段階で、大企業内のいわゆるエースと言われている人材を投与していきます。役割分担ですね。
革新的な事業をKPIで測ってはダメ
先ほどの、0→1のフェーズと、その後のグロースフェーズの人材の役割分担の話にもつながりますが、新規事業を既存のKPIで測ってしまうこともイノベーションを阻害する要因となります。
革新的な事業は、既存のKPIでは絶対に測れないものですが、人間の性として、自分が分かる枠組みに当てはめて把握したい、そうでないと不安だから。というのがあります。何かしらのKPIを置くと、数字で一見明確に見えるし分かりやすいしというので、既存事業のKPI管理と同じ感じで管理しがちです。グロースフェーズの人材の得意分野との相性も良いです。
ただ、それでは革新的な事業は生まれないです。これは、北野さんの著書「天才を殺す凡人」にも記載されています。
事業も担当する人も生物として違うくらいに考えて、見守るというスタンスが正しいでしょう。期間と最終的なアウトプットを抽象度高い感じで合意しておくのは必要だと思いますが、それ以上の細かい管理はせずに、そっと見守る。そして、形になった段階でバトンタッチするという度量を持てるかどうかが大事です。
コメント