すでにSkype、Google Hangoutsなどビデオ通話領域では大企業が入りマーケットは成熟したかに見えた領域で、後発参入してどうして成功できたのか興味を持ったので調べてみました。
確かに、ZOOMはアカウント作成も必要なく使いやすいですが、Skypeも途中からアカウント作成なしになりましたし、appear.inも最初からアカウント作成は必要なかったので、どうしてZOOMだけこんなに成功したのかは気になったところ。
しかも、同時期に上場したUber, WeWorkなどのシェアリングサービスと比較して、赤字垂れ流し上場ではなくしっかり黒字化できているという点でしっかり経営されているのだろうなという印象。
Zoom 2020年3Q決算
まずはIRから2020年3Q決算
売上:1.66億ドル(≒180億円) +85% y/y
粗利:1.36億ドル(売上の85%程度)
純利益:220万ドル(売上利益率:1.3%)
さすが、SaaSだけあって粗利高いです。
純利益がそれほど出ていないけれども、投資に回しているから。にしても、しっかり黒字で終えているところはさすが。
マネックス銘柄スカウター米国株より
PL詳細
・売上の半分以上を販管費に使っているのが興味深い。
・開発費は売上の1割弱と意外と少ない。
→グローバルで市場を開拓している段階で、面を取るためにマーケティングに莫大に投資している。販売パートナープログラムも最近立ち上げてました。
販管費は、プロダクトのフェーズによって必要な額は変わってくると思いますが、毎年、売上の5-6割くらい使っているということは、ギリギリ黒字で終わる程度を逆算しながらマーケティングの予算を決めて実行している可能性が高いのかなと。税金払うよりプロダクト普及に投資した方が良いですし。ここら辺、戦略的ですね。お金の使い方がうまいなという印象。
あと、SaaSで便利だとひとりでにバイラルされていくのかと思いきや全然そんなことはないと。特に大企業への導入の場合。
ZOOM後発参入での成功要因
組織・戦略面
創業者が課題を感じていて、かつ技術的知識があった
もともと、ciscoのビデオ会議ツールwebexの技術部門の副部長を勤めていて、顧客から使いづらいという要望を聞いていた。webexの改善をcisco内で提案したが却下されたため、独立して顧客課題を解決できるビデオツールを開発。その際に、ciscoの優秀なエンジニアもついてきたので、創業段階でビデオ通話の開発力がすでにあった。
→最初から自分たちが作りたいビデオ通話に対して、最適解で開発を進められる力が他企業よりあった。その後2年で14万人のビジネスマンに使ってもらうまでになった。
顧客満足に集中した
Skype、Google Hangoutsなどすでに存在していた競合のサービスは見ずに、ユーザーの満足いくサービスを作ることに集中した。
創業者が「Hangouts, Skypeよりも自分達が良いサービスを作れる自信があった」とインタビューで答えており、傍から見てすでにあるサービスと一緒じゃんと思って参入しない場合でも、実際の現場経験がある人は課題の解像度が違うのだろうなと。これは往々にしてある。
サービス面
他サービスとの連携を積極的に進めた
カレンダーやSlackなど、相当数のアプリと連携できるようにしている。カスタマーが普段使っているアプリとZOOMを連携して使えるので、ワークフローに馴染む。
シンプルな操作性
ユーザーの必要に合わせて表示する機能を変え、シンプルなUIを基本としている。
ZOOMにはウェビナーで使う際に必要になるような高度な機能があり、こうした機能を使うには事前トレーニングが必要になるが、一般的な使い方をするユーザーには不要な機能なので、表示しないようにした。
→プロダクトを開発していくと、顧客の要望に応えて徐々に多機能になるのは避けられず、ただそうなるとボタンてんこ盛りでどこに何があるのか分からないというジレンマに陥るので、シンプルなUIを保つのはとても重要でそれを実践できているのがさすが。
β版開発
→うにょうにょしてPMF達成
→顧客要望に応じて多機能化
→プランを3段階に分ける(ベーシック、スタンダード、プレミアム)
→ぱっと見のUIはベーシックに合わせてシンプルにして、入り口は優しくしつつ、機能を使いこなしたい方はアドバンストの設定をすると色んなごちゃごちゃした機能やボタンが表示される。
プロダクトの成熟は上記を辿る気がしてます。
マーケティング
初期はマーケティングをせずに口コミに注力
エンドユーザー自身にZOOMに語ってもらった。
あと、サービスの特徴上、一人で使うことはできないので、誰かをmtgに招待してもう片方が満足したら、次のmtgの時にその人が使い始めるという、サービス特性上のバイラルがあった(ただし、これは他のビデオ通話も同じ)。
ROIが見えにくいものにも積極的に投資
2015年にSerisCを終えた後に、マーケティング担当を初めて雇い、積極的なマーケティングを開始。その時には、創業者にこうしたマーケティングを展開するという明確な方向性はなかったが、創業者がマーケティングへの投資に理解があったため、マーケティング担当の提案を聞き入れることができた。
→当時は、素晴らしい製品はすでに出来ていて、継続率は高かったが、最初のサービス認知のところが弱かった。なので、複数のマーケティング・チャネルでA/Bテストをやった。(top-of-funnelアプローチ)
空港での広告展開などROIが見えにくいマーケティングも積極的に行った。
様々なチャネルに露出
ブランド構築においては、複数のマーケティング・チャネルにおける高い露出頻度が重要。製品サイトで常に新しい情報を発信、SNSやYouTubeでの発信に加え、サンフランシスコ市内では、屋内やバス広告、そしてラジオも使い、どこにいてもZOOMを目にするように仕掛けた。
グローバル展開:オーガニックグロースがある程度発生した国に参入
当社サイトへのアクセス数や、ユーザー登録数、ビデオコミュニケーションカテゴリーでの検索数などを参考にし、すでに関心が集まってきている市場を選んで参入を決めた。
日本の展開に関し1社営業コミットしてくれる会社と独占契約をまず結んだ。その会社の社長が、全社員にZOOMライセンスを付与し、まずはZOOMの良さを知ってもらった。
すると、営業社員が社内のmtgのやりとりだけではなく、社外とのmtgもZOOMを使いませんか?と提案し、実際に使って便利だと感じた社外の方にアプローチして、ZOOMトライアルへと結びつけた。
価格設定:フリーミアムモデル
フリープランは、40分までだが、100人を招待できるという破格の人数(これは、おそらくあえて大盤振る舞いしたのか?他社サービスだとせいぜい10人まで)。フリープランでの時間以外の機能制限は設けていない。
40分という時間制限は、重要な会議の場合には少し足りないと感じる人が多い。おそらく1時間は欲しいと感じるので、40分のタイムリミットが来る時点で、課金することを考える。課金を考えたときに毎月15ドルという価格設定はとても妥当に感じるように有料価格を設計。他のサービスと比較すると安くてかつ機能が充実している。
Slackもそうだけど、フリーだから機能が制限されるのではなく、フリーでもフルで機能は使えてまずはベネフィットを感じてもらって、でも、絶妙な部分を有料化への切り替えポイントにするというやり方が最近のトレンドなのかなと。ZOOMの40分という時間制限しかり、Slackのチャットの履歴を全部は追えないのしかり。そういう意味ではChatworkのチャネル作成15までというのも悪くなかったのかなと。
まとめると
・創業者が課題を明確に感じていて、事業ドメインの知識もあった
・創業者が倹約家、と同時に、お金をかけるべきところには適切なタイミングで資金投下する意思決定できた(PMF達成した後のグロースの段階での認知拡大戦略など)
・初期は顧客満足に集中してPMFを最適化
といったところでしょうか。これだけが成功要因でもないはずなので、調べてみて、随時加筆していきます。社長が金銭管理をしっかりしているところは経営基盤も安定している印象。
ZOOMが出てきて、ビデオ通話領域は完全に成熟したかと思いきや、日本では営業に特化したベルフェイスが出てきたりして、面白いなと思います。
単なるビデオ通話だけではなく、会話から売上を向上させるデータ解析という付加価値を提供するという、また別の切り口が現れてくるのも面白いですね。
ベルフェイスについては、こちらの記事がなるほどと思いました。
画像の解像度はあまり気にならないが、音声途切れるはペインポイントになるので敢えて電話にしたと。
https://note.com/embed/notes/n71b66b69004a
と思ったら、実はZOOMもZoom Phoneという「企業向けクラウド電話システム機能」を最近発表していました。やはりネット回線での音声問題は顧客から上がっていて、音声は電話で切り離すのも別プロダクトとして対応してきた感じですかね。いやぁ、激戦必至。長期的にみたら5Gになって電話回線の優位性は崩れるとは思いますが。
プラットフォーマーが現れると、次は領域を特化してそこにさらに最適化したプレイヤーが現れるのは常だなと感じます。なので、ZOOMが出てきたからこの分野はもう参入余地がないと考えてしまいがちだけど、現実はそうではないと。
今後も、気になった企業を適宜リサーチして気ままに投稿していきます。
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