はじめに
かなりボリューミーな内容で、人口動態の歴史、財政、出生率、コミュニティ、医療など様々な側面から、人口減少を前提とした2050年の持続可能な日本の在り方を論じている。
この本を元にして、都市化率と出生率に関して記載したいと思う。
日本の総人口の長期的トレンド
日本の総人口の長期トレンドは下図。
特筆すべきは、江戸時代の約200年間は総人口3000万人で維持し続けたこと。明治維新以降、20世紀はずっと人口増加の時代だったが、2005年に初めて、前年より人口が減るという現象が起こる。
その後数年、人口が上下する年が続いたが、2011年以降は完全な人口減少社会になり現在に至る。
少し前までは「人口増加=諸悪の根源」という論調
人口(に限らないが)に関する議論は面白いもので、今は人口減少は諸悪の根源だという悲観的な論調がほとんどを占めるが、20世紀前半から戦後にかけては人口増加時代であり、その時は「人口増加が諸悪の根源だ」という全く逆の議論がなされていた。
明治維新以降に急激に増えた人口増加に対処するために、大正時代は「産児制限」を推奨し、「子どもが次々と生まれてしまうから女性はいつまで経っても育児に追われてしまい、社会進出が進まない」という論調だった。
また第二次世界大戦敗戦後の日本を管轄したGHQも、日本人の人口増加を問題視し、人口増加を抑止するために、避妊具の活用を奨励し正しい性知識の普及を図った。天然資源が少なく、耕地も不足している日本でこんなに人口増加が進めば、食糧問題に悩まされてしまうという論調だった。
これは日本に限らず、中国も長らく1979年から2014年まで40年近くにわたって、一人っ子政策を推奨していたが、今では状況が一変して、少子化が止まらず、人口減少問題に悩まされている。
都市化率と出生率の逆相関関係!?
先ほどの急激な人口増加時代は、全てが東京に向かって流れる時代とパラレルに進行していった。
都道府県別の合計特殊出生率(2024年)がこちら。
国内でかなり地域差があり、沖縄が1.6と最も高く、一番低いのは東京(0.99)である。ただし、どちらも2018年と比較して低下している(沖縄:1.89→1.6、東京:1.2→0.99)。東京は2024年に全国で初めて1を割った。
2024年の合計特殊出生率は1.20と過去最低で、婚姻数も47万件と最低値を更新した
単純に言えば〝人口が東京に集中すればするほど日本全体の出生率が下がり、人口減少が進む〟ことを意味している。
「人口減少社会のデザイン」広井 良典 (著)
東京に経済が集中しているので、皆東京に来るが、生活コストも高いので、子供を何人も産む人というのは経済的にも限られるだろう。
「都市集中型」か「地方分散型」か
著者は、今後の日本を都市集中型か地方分散型か、もしくは第三の道があるのかという観点で論じている。都市集中型には下記デメリットを挙げている。
「破局シナリオ」とはあえて強い表現を使ったものだが、その主旨は、以上に指摘したような点を含め、財政破綻、人口減少加速(←出生率低下←若者困窮)、格差・貧困拡大、失業率上昇( AI による代替を含む)、地方都市空洞化& シャッター通り化、買物難民拡大、農業空洞化等々といった一連の事象が複合的に生じるということである。
若い世代のローカル志向や地域志向は近年高まりつつあるが、それは「志向」にとどまっており、実際にIターンやUターンを行なっている人が増えているわけではない。逆に東京都への転入超過は続いている。
https://nordot.app/1124939532250300787?c=113147194022725109
総務省が30日公表した2023年の人口移動報告によると、東京都は転入者が転出者を上回る「転入超過」が6万8285人だった。前年の3万8023人から80%増え、新型コロナウイルス感染拡大前の19年(8万2982人)に近づいた。20、21年は超過数が減少していたが、東京一極集中が再び加速した。
都の転入超過、23年は80%増 6万8千人、人口流出40道府県
一極集中の行き着く先は韓国?
東京一極集中から地方分散へと転換を図ることができれば良いとは思うが、現実そう簡単にいきそうもない。
安宅さんは地方分散への転換を、Withコロナ時代の「開疎化」という絶妙なキーワードで提唱した。
ただ、現実的には、コロナ明けの現在、それほど地方分散が進んでいるわけではない。むしろ逆戻りしている。この東京一極集中の行き着く先はどうなるのか?
先例として韓国が挙げられる。
韓国の「合計特殊出生率0.7」の衝撃
日本は現在、出生率が1.2-1.3で十分に低いのだが、世界で最も低い国は韓国であり、その数字はなんと0.72と、1を優に割っている。
ちなみに、出生率低下問題は日本だけではなく、世界各国で問題になっており、多くの移民を受け入れている米国でも1.5人まで下がっている。北欧も同じくらいに急激に下がってきている。
韓国の合計特殊出生率を聞いて、米カリフォルニア大学のジョアン・ウィリアムズ名誉教授が見せた下記反応は、ネット上でミーム化した。
「これほど低い数値の出生率は聞いたことがありません。わあ、大韓民国は完全に失敗しましたね」
“Korea’s so screwed. Wow!”
韓国では、新たに「少子化対策省」を設置するまでになっている。
https://mainichi.jp/articles/20240509/k00/00m/030/114000c
韓国の首都圏集中率は50%を超える
下記記事に詳細が記載されているが、韓国は首都圏の住民登録人口は、全体の50.7%に上り、韓国の4大都市の出生率はソウル市が0.55、釜山市が0.66、仁川市が0.69、大邱市が0.70で下位1位から4位を占めている。東京の出生率が1.04なので、約半分である。
https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=77782?site=nli#:~:text=韓国の4大都市,下回ることになった。
良質の仕事を求めて首都圏に集まった若者は、激しい競争を生き残るために結婚と出産をあきらめた可能性が高いだろう。
韓国の出生率が0.72で、8年連続過去最低を更新-若者の意識を的確に把握し有効な対策の実施を-
日本の首都圏人口率は現在約30%。首都圏の人口は微増か横ばいであるが、地方が1年に1都市分くらいの人口が消滅していっているので、相対的に首都圏の人口率は上がってきている。
まだ韓国の50%までは行かないにしても、この傾向が続けばいずれは50%を超えてくるだろう。そしてその時には、出生率は0.7くらいになっていてもおかしくない。
ちなみに、こちらは2024年の出生率予測だが、東南アジア(タイ・シンガポール・香港・台湾など)はすべて1を切っているのは驚き。北欧も1.5くらいにまで下がっている。
コンストラクタル法則に基づくと?
話題は変わるが、「流れがあり、かつ自由な領域があるなら、より速くより滑らかに動くよう進化する」という、コンストラクタル法則がある。
情報浸透の効率性の観点からは必然的に巨大な階層的組織が誕生するというもの。都市化率がコンストラクタル法則に当てはまるかは不明だが、人・モノ・金・情報が大都市に集中するのは、情報の効率性という観点からは必然であり、地方分散を政策的に意識的に促すことは、大勢の流れに逆らう行為をすることになり、かなりの労力を要するか、持続可能性は難しいかもしれない。
最終的に都市化率がどのような定常状態に落ち着くかは不明だし、それを規定する因子が何か(地形なのか経済格差なのか)も不明だが、いずれは情報浸透の効率性の観点で都市化率も定常状態に落ち着くのではとも思う。
我々は人口動態の平衡点に達する過程を見ているだけ?
冒頭に、日本の総人口の長期トレンドのグラフを掲載したが、これを見ると、長い年月の中で、明治維新以降の人口増加自体が異常なトレンドだったとも言える。
江戸時代の人口定常状態がどのような構造で成り立っていたかは、詳しく調べていないが
多産多死で定常状態が続いていたとすれば、その後の明治維新以降の20世紀末までが多産少死で人口が異常に増加したわけで、2000年以降現在直面している現象が小産多死。最終的には、さらに小産少死で定常状態に落ち着くかもしれない。
定常状態の人口がどのくらいかは知る由もないが、現状毎年80-100万人くらいの人口減であることを考えると、50年後に7000万人、もしくは100年後に3000万人などで定常状態になるかもしれない。明治維新以降に急激に人口増加を辿った分を、ほぼ同じくらいの角度で人口減を進んでいるわけで、最終的には江戸時代の人口3000万人くらいの元の平衡点に達する過程を我々は見ているだけかもしれない。
もしくは、理論上は合計特殊出生率が2.1未満の場合、その国だけで人口減少は避けられないので、平衡点に達することなく、そのままなくなるかもしれない。
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