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『エヌビディア 半導体の覇者が作り出す2040年の世界』読書感想

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はじめに

津田建二氏の『エヌビディア 半導体の覇者が作り出す2040年の世界』を読んで、NVIDIAがどのようにして半導体業界で圧倒的な地位を築いたのか、その技術革新の過程を学ぶことができた。ゲームグラフィックを支えるGPU技術が、AIや科学技術計算の分野に展開されていく過程が明確に示されている。

同時に、日本の半導体産業の凋落の要因についても詳細に記されている。本書の内容を踏まえ、いくつかの観点から感想を述べる。

GPUがゲームグラフィックからAIへ展開した道のり

NVIDIAがAIのリーディングカンパニーとして知られるようになった背景には、GPU技術の進化がある。本書でも触れられている通り、NVIDIAは当初ゲーム機用の画像処理を目的にGPUを開発していた。ポリゴン(三角形)を基本単位として動物や植物などの絵を描く技術が進化し、リアルなゲームグラフィックが可能になった。

ポリゴンの仕組みは極めて合理的である。三角形はすべての多角形の基本要素であり、必ず平面を形成するという特性を持つ。任意の多角形は複数の三角形に分割できるため、三角形を使えばどんな形状も表現可能である。

曲線の表現には、三角形の頂点を細かく配置し、それらをつなぎ合わせて曲面を構成する手法が使われる。三角形のサイズを小さくし、数を増やせば滑らかな曲線が再現される。

FusionやBlendarなど3Dグラフィックスツールを使用して、物体をスキャンした時に下記のようにスキャンした物体がポリゴンで構成されているのは、3D形状を三角形や四角形などのポリゴンメッシュで表現しているため。

  • スキャンデータから無数の点が取得され、それらを結ぶことで三角形のポリゴンメッシュが生成される。
  • 三角形のサイズが小さいほど、より滑らかで詳細な形状を再現できる
  • 曲面も、三角形の頂点を細かく配置し繋ぎ合わせることで表現される。

これにより、3Dオブジェクトの細部や複雑な形状も高精度に描画可能となる。NVIDIAはこの技術を磨き続け、映像処理だけでなくシミュレーションやVRなど多様な分野での応用を進めている。

ポリゴンと積和演算がつなぐAIへの道

NVIDIAがAI分野に参入できた背景には、ポリゴンを描画する際の積和演算と、AIにおけるニューラルネットワークの積和演算の類似性がある。ポリゴンの描画過程では、多数の三角形を使って曲面を近似し、各頂点の座標変換やシェーディング処理が積和演算で行われる。

一方でニューラルネットワークも積和演算の連続である。重み付き和をとる処理が多層に渡り実行されることで、AIの学習が行われる。流体力学や電磁界解析などとニューラルネットワークの演算は計算構造が類似している。これが、GPUがAI分野で活躍する理由である。

この共通性により、NVIDIAはGPUをAI向けに転用することが容易だった。GPUが持つ並列演算能力と積和演算器の大量搭載は、AIの学習・推論においても非常に効果的だった。ポリゴン描画で培った技術が、そのままAIの計算処理に応用される形でNVIDIAは市場を拡大していった。

転機となったのはAlexNetの登場である。AIのニューラルネットワークの演算にGPUが有効であることが判明し、NVIDIAはAIのための技術開発に力を入れ始めた。ゲーム用に最適化されたGPUがAIの学習・推論で活用されるという展開は、技術の応用力と先見性を示している。

CUDAという革命

NVIDIAがAI分野での競争力を確立した最大の要因の一つがCUDAである。2006年に発表されたCUDAは、C/C++言語を拡張した形でGPUを直接プログラムすることを可能にした。従来のDirectXなどがグラフィックス専用であったのに対し、CUDAは数値計算やシミュレーションなど幅広い用途でGPUを活用できる画期的な技術である。

3Dコンピューターグラフィックスを描くためには、1枚の絵を小さなブロックに分割し、それらを同時に並列処理で描くという手法を取ることによって、絵を描くスピードを上げた。

CUDAはGPUを汎用的に使えるプラットフォームを提供し、エンジニアが簡単に高性能計算を実現できるようにした。プログラムはC/C++の記述をベースにしており、NVCCというCUDA専用のコンパイラでコンパイルすることでGPUが直接バイナリコードを実行する。この「GPUをプログラミングする」という行為自体が革新的である。通常はバイナリレベルでハードウェアを扱う必要があるが、CUDAはプログラマーが抽象的にGPUの並列処理を記述できる環境を整えた。

CUDAの登場により、AIの学習や流体力学シミュレーション、分子動力学など幅広い分野でGPUが利用されるようになった。科学計算におけるGPUの普及は、まさにCUDAがもたらした革命である。

エッジでのAI学習という新しい常識

従来、「学習はクラウドで、推論はエッジで行う」のが常識だったが、これが変わりつつある。クラウドで生成した学習データ(基盤モデル)を元に、追加学習だけで専用のAIモデルを作れるようになってきた。

パソコンやエッジデバイスで追加学習を行い、リアルタイムで推論が可能になる時代が到来している。これにより、クラウドに依存せずにエッジデバイス単体で高精度なAI推論を実行できる。データのプライバシーを保持しつつ、高速な処理が求められる分野での利用が進む。

日本の半導体産業の凋落の要因

日本の半導体産業が凋落した要因として、貿易摩擦により米国政府の圧力に負けたからだけではなく、むしろ総合電機メーカーの経営者たちがITや半導体技術への理解が乏しく、適切な経営判断を下せなかったことが挙げられる。「半導体=斜陽産業」という誤った認識がマスコミを通じて広まったことも問題であった。

下記は、半導体業界の中心にいた人たちに2004年から10年間かけて著者が取材して整理した、日本の半導体没落の要因。

日本の半導体メーカーが検収後でなければ代金を支払わなかった一方で、TSMCやサムスンは納入後すぐに代金の7〜8割を支払っていた。金払いの良さがサプライヤーとの関係を強化し、日本の製造装置企業が韓国や台湾、米国に顧客を求める要因となった。日本の半導体製造装置企業は日本メーカーに見切りをつけ、外国メーカーを顧客に取り込むことで海外で成長し生き残った。

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