はじめに
今回取り上げたいのは、新興動画メディアPIVOTで取り上げられていた「人事ガチャの秘密。なぜ中年ローパフォーマーが増えるのか?」に関して。
https://pivotmedia.co.jp/movie/10638
なんともセンセーショナルでショッキングな内容であるが、まとめておこうと思う。
パーソル総合研究所 上席主任研究員の藤井 薫さんが提唱されている内容になる。藤井さんは『人事ガチャの秘密:配属・異動・昇進のからくり』という本を出版されている。
ミドルパフォーマーが放っておかれやすい理由
ここでミドルパフォーマーは、どの組織や組織でも構成される「262の法則」つまり「優秀な2割」、「平均的な6割」、「貢献度の低い2割」のうちの、真ん中に属する「平均的な6割」を指す。
ハイパフォーマー:積極的な配置転換
まず優秀な上位2割に関しては、その中でもさらに2つのグループに分かれる。
- 次世代経営人材(ハイポテンシャル人材):全体の1%。部長の中でも優秀層
- その他の優秀層:普通の部長
ハイポテンシャルの次世代経営人材をどう見つけて育成するかは、どの会社も至上命題なので、この優秀層に関しては、全社単位で定期的にローテーションさせるなどして人事部も事業部門も目配りしている。
ただ、この優秀層はより良い成長機会を求めて、会社外への転職も積極的に行う人たちが多い。
なので、たとえばグローバル企業で1部門半年間でジョブローテーションを3-4年行って、次世代経営人材として手塩にかけて育成したとしても、その後に「ありがとうございました!XXX企業に転職します」と逃げられてしまうことも多いので、人事部としては、どうやって引き留めるかと観点で悩みの種になることもあるだろう。
ローパフォーマー:新たなマッチング先を探す
いわゆる下位2割に属する人たち。
日本は解雇規制が強い国なので、仕事の出来が悪いからといってすぐに解雇はできない。
それが故に、所属部門から人事部に対して『私の部門下だと パフォーマンスが芳しくないために、他の部門への異動を検討いただけますでしょうか?』 と相談が来て、 新たなマッチング先を探すという点で、ハイパフォーマーと同じく目配りされている。
ミドルパフォーマー:戦力としては機能している
実際には2:6:2の6割よりも多く、8-9割が属するとのことだが、しっかり機能している人たち。
相対評価で行くと、『標準・並』となるが、絶対評価で行くと『 毎年の業務目標はほぼ達成していて、戦力としては問題がない人たち』。
一見悪くなさそうだが、だからこそ事業部門から育成の対象として見過ごされやすい。
- 事業部門や人事部は、ハイパフォーマーの育成とローパフォーマーの配置転換で手一杯
- ミドルパフォーマーは、ハイパフォーマーのように積極的に部門異動させて新しい経験を積ませて、次世代経営人材として育成するほどの対象ではないので、同じ部門で仕事をすることになり、そこでの成果は上げているので、事業部門からすると「可もなく不可もなくで、よく頑張っているね」ですまされやすい。
という理由から、ミドルパフォーマーは異動検討対象外になりがち。特にここでは30半ば〜40半ばを指す。というのも、入社して最初の10年は人事部も事業部門もある程度は目をかけているので。
とはいえ、「戦力として機能していていれば問題ないのでは?」と思うが、これが中年になってくると話が変わってくるという。なぜか?
なぜ、ミドルパフォーマーは40半ば以降でローパフォーマー化するのか?
これには大きく、 下記の2つの理由があると言う。
- 気力・体力・判断力の衰え
- 年功序列制なので、給料に期待値が見合わなくなる。
気力・体力・判断力の衰え
1つ目の「気力・体力・判断力の衰え」は身も蓋も無い話だが、さらに2つに分かれると思っている。
1つ目は、流動性知能(生得的な頭の良さ。地頭)は30代から40代に急速に低下しはじめるという人間一般的な現象。前頭前皮質が担う『推論力、柔軟な思考力、目新しい問題の解決力』などは、40を過ぎると衰えてくる。これは仕方ない。詳細は以前下記の記事で記載した。
これに関しては、積極的に結晶性知能(過去の経験による知識や知恵)を活用する戦いに移らないといけない。
もう1つが、これはミドルパフォーマー特有だと思うが、異動対象外になりがちなので、10年近く同じ部署で同じような作業を行うことになる。そうすると当然ずっと同じことをやっているので成長意欲も落ちていくし、変化が乏しければ発想力なども衰えてくるのは必然であろう。
年功序列制で、給料に期待値が見合わなくなる
日本は年功序列制なので、同じミドルパフォーマーでも30代半ばよりも40代半ばの方が給料が上がっていることが多い。
戦力的にも特に問題がないので、毎年の給与査定では平均して年4%くらいずつ給与アップを繰り返す人も多いだろう。そうすると、給与ベースでの周囲からの期待値は漸増していくことになる。
30代半ばでは周囲からの期待値とパフォーマンスがトントンで見合っていたが、40代半ばになると、期待値だけ給与という側面で上がり、パフォーマンスは同じ業務を繰り返しているので相対的に下がってきたと見なされてしまう。
酷な話ではあるが、これが40代半ば以上でミドルパフォーマーがローパフォーマー化すると主張している所以である。
そして40代半ば以降にローパフォーマー化した人たちに会社は頭を悩ませることが多くなり、早期退職勧奨などを通じて放出対象となる。その前の10年は、ミドルパフォーマーとして何も戦力的にも問題がなかったように見えたために、会社も気づいていなくて、いきなり問題が出てきたように映ってしまう。
年功序列制の場合、こうしたミドルパフォーマーの人たちは、 典型的には大体40代で課長になるが、課長から部長になるのはその中の2割であり、部長になるほどの優秀層ではないので、残り20年間をずっと課長のまま過ごすことになる。
そして中間管理職として1on1 などのピープルマネージメントや、書類業務などをマネジメントルーティーンで時間を取られるようになり、自分の専門性がなかなか身に付かないまま定年を迎えることになる。という典型的な未来が待っている。
では、現在30代前半〜半ばのミドルパフォーマーの人たち(管理職にはなれなさそうと感じ始めた人たち)は、きたる40代中盤以降に備えて、キャリア形成として何をしておく必要があるのか?
複数の専門性を身につけて、スペシャリストを模索する
今の専門性とは別の専門性を身につける
今までの話からいくと、 ミドルパフォーマーの人たちがその会社の中で管理職になるのは、競争も熾烈だし厳しい。
というわけで、専門性を身に付けてスペシャリストを模索するのが一つの解決策になる。
具体的には、社内で新しいプロジェクトにチャレンジするような手挙げの機会がある場合には、積極的に参加して新しいスキルを身につけるなどをする。
ちなみに、1つの専門性を身につけてそこで生きる(つまりジョブ型)を実践するのもあると思うが、ジョブ型は良い面ばかりではなく、例えばジョブ型を採用しているドイツでは、管理職になれなかった人たちは40代でほぼ給与は頭打ちになる。同一労働をしているのだから当然であろう。日本だと年功序列制がまだ残っているので、そのままでも給与が漸増することがあるが、ジョブ型ではそうならない。
これに関しては、下記の「ジョブ型とメンバーシップ型の功罪」に関する記事で詳細を記載した。
というわけで、今所属している部署で身につけている専門性を深めつつ、他の専門性も模索して、1つではなく複数の専門性を身につけるという戦略を取る必要がある。
流行りのリスキリングなどもこの文脈に入るだろう。会社がリスキリングの機会を提供しているとは限らない(まだそこまで整備が整っていないか、そこまでの余裕がない)場合がほとんどなので、社外で時間を割いて学んでいく(プログラミング・動画編集・財務経理・マーケティングなどなど)必要も出てくるかもしれない。
最終的には、自分の専門分野という安全地帯から離れて異分野を積極的に学べるかという好奇心の問題に落ち着くのだが、幅広い好奇心を持てるかどうかは遺伝要素が結構強いのでは?と個人的には思っているので、そうなると、、、
プレイヤー向きかマネージャー向きかは、早めに把握しておく
また、プレイヤーとマネージャーの違いもあり、求められる役割は異なり(プレイヤーの時の個別最適から、マネージャーの場合は全体最適を思考するマインドへと切り替える必要がある。例えていうなら、演奏者から指揮者になるイメージである)、向き不向きもある。プレイヤーとして素晴らしい業績を上げていて、管理職になった人がマネジメントには向いていなくて、プレイヤーに自ら戻る(or戻らされる)というケースもある。
というわけで、向き不向き、あと好きか嫌いかも関わってくるので、管理職になる前に、小さいグループでも良いのでプロジェクトをマネジメントする機会が出てきたら、早い段階で積極的に関わった方が良い。そうすることで、事前に自分がプレイヤー向きかマネージャー向きか、そして、それが好きか嫌いかが分かるようになる。
ミドルパフォーマーで管理職にならない(その会社では、管理職になる見込みがない)場合で、かつ、マネジメントが得意でない場合には、プレイヤーとして専門性を身につける方向に舵を切り、今の業務の専門性に加えて、隣接領域もしくは全く違う領域でもう1つか2つ専門的なスキルを学ぶという道を模索するのもありだと思う。これもまた大変な道ではあるが。
会社を使うというマインドの重要性
あとは、「会社を使う」というマインドも重要だと個人的には思う。
「今やっている仕事が会社独自のものではなく汎化できるか」という視点で、できるだけ汎化できるスキルを身につけるのに時間を費やすべきである。
具体的には「転職時にレジュメに記載できる、もしくは、面接時に汎用的なスキルや経験として面接官に説明できる。フリーランスとして独立した際に、顧客に提供できる」といった視点から自分が会社で今行っている業務を第三者的に捉える。そして、汎用的でないスキル、その会社でしか通用しないスキルの業務は積極的に切るもしくは時短で終わらせる、仕組み化するなどを考える。
会社にしがみつくのではなく、いつでも辞められるという意識を持って、転職時や独立時を想定しながら業務をすると、結果的に会社でのパフォーマンスも上がるだろう。
たとえば、WEBマーケをやっている時に、
「データ分析の難しいものは今までエンジニアにBigQueryでの解析を依頼していたが、SQL文の勉強をしてBigQueryでのデータ分析を自分ができるようになれば、単なるWEBマーケをやっている人たちよりも、より高度なデータ分析もできるという点で転職時にも有利に働くかもしれない。エンジニアの方にお願いして分析方法をレクチャーしてもらおう」
というような行動に変わってくる。それで、実際にBigQueryでの解析スキルを身につけると、エンジニアの作業負担が一部減り、それが評価となり、周り回って社内での評価が上がるというのも十分に考えられる。
エンジニアだったら
「今までやったことがなかったけど、Railsのバージョンアップという結構重たい作業が予定されている。大変そうだけど、これにチャレンジすると、RailsのバージョンアップはWebサービスを提供している企業のバックエンド側では、ほぼ必ず遭遇する事象だから、汎用性が高いな。自ら手を挙げて、頑張ってチャレンジしよう」
という行動になる。
ただ、今あげた大きく2つの対策
・会社の通常の仕事に加えて、隙間時間を活用して別の専門性を身につける or 新規プロジェクトに積極的に自ら関わる
・会社を使い倒すというマインドを持って、汎化的な業務スキルを身につけることに焦点を当てる(そもそも何が汎用的なスキルになるかを認識できている)
ができる人は、そもそもミドルパフォーマーに止まっていなくて、既にハイパフォーマーになっているだろうという逆説もありやなしや、、、
まとめ
ミドルパフォーマーの人たちは問題がないが故に、働き盛りの30半ば〜40半ばまでは会社から良くも悪くも放っておかれて、いざ40半ばになるとローパフォーマー扱いになり放出対象となるのは、なんとも酷な話だと感じたが、逆に10年後にそのような未来が待っていると知れば、30代前半から危機感を持って事前策を講じることもできるだろう。
とても良い対談動画だった。